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アングル:トヨタからテスラへ、EVが呼ぶ自動車業界の「王者交代」

2023年01月27日(金)17時30分

 1月26日、トヨタ自動車が予想外の社長交代を発表し、企業連合を組む日産自動車とルノーは資本関係の見直し作業を急いでいる。写真は2010年、東京都内でトヨタの豊田章男社長にテスラの「ロードスター」のキーを渡すイーロン・マスクCEO(2023年 ロイター/Issei Kato)

[デトロイト 26日 ロイター] - トヨタ自動車が26日に予想外の社長交代を発表し、企業連合を組む日産自動車とルノーは資本関係の見直し作業を急いでいる。

一方で、米電気自動車(EV)大手・テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)からは、この先にテスラが圧倒的な世界ナンバー1の自動車メーカーになるとの「超強気発言」が聞かれる。そして、この3つの出来事には共通の意味がある。

つまり、かつて誰もが認めていた世界の自動車業界の主役は、もはやその地位を保てなくなっているということだ。

トヨタは創業家出身の豊田章男社長が4月1日付で代表権のある会長に就き、後任に執行役員の佐藤恒治氏を充てると表明した。

その数時間前にはマスク氏が四半期決算公表後の電話会議で、テスラは収益性と生産効率の面で、今や業界のリーダーだと宣言した。どちらの分野も過去30年余りにわたって王座を守ってきたのはトヨタだった。

次期社長となる佐藤氏に課せられた責務は重い。より競争力のあるEVの開発作業を加速させなければならないが、テスラや中国EVメーカーがその技術力と生産コストの優位を生かして値下げに動くとともに、息つく暇はほとんどなくなるだろう。

テスラは既に、自動車1台当たりの利益がトヨタの約7倍もある。税引き前粗利益率は17%で、業界他社平均のほぼ2倍。昨年は厳しい逆風にさらされたテスラの株価も、今年に入ってからは28%上昇した。

マスク氏は25日、3万ドルを切る価格でもうけを出せる新車を開発中であることを改めて示唆し、トヨタやフォルクスワーゲン(VW)、フォード・モーター、ゼネラル・モーターズ(GM)などと大衆車市場で勝負しようとしている。

もちろんマスク氏の場合、サイバートラックなどのように当初の約束よりも実際の納車時期がずっと遅くなるケースも見受けられる。それでも、トヨタが長らく頂点に君臨してきた業界のヒエラルキーに「下克上」を起こすというマスク氏の野心は明白だ。

5年先の自動車業界の見通しを聞かれたマスク氏は「(テスラに続く)2番手が望遠鏡で探しても目に入ってくるとは思わない。少なくともわれわれの視界には捉えられない」と言い放った。

<消えた既存メーカーの優位性>

これまでの世界の自動車業界は、7年から10年のサイクルで浮き沈みを繰り返してきたが、今の状況は全く異なる。

新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした衝撃や、2年間に及ぶサプライチェーン(供給網)の混乱、さらに今年は景気後退(リセッション)が到来する可能性があるというそれぞれの問題と、100年に1回しかないような業界の根本的な技術変化が、同時に発生しつつあるのだ。

内燃エンジン車が強力なコンピューターチップを備えたEVに取って代わられるにつれて、トヨタが享受していた既存メーカーとしての優位性の多くは、消え去ろうとしている。

コンピューターとソフトウエアで動くEVへの移行は、テスラや特に中国における他の新興メーカーに飛躍の場を与え、競争の基本条件が覆ってしまった。その中でテスラが仕掛ける価格戦争は、大きなうねりのほんの序章に過ぎないのかもしれない。

モルガン・スタンレーの自動車アナリスト、アダム・ジョーンズ氏は今週のノートに「他社がこのEVレースに付いていけるかどうか疑問を持っている」と記した。

既存メーカーは、成熟した従来の自動車関連技術を改良して対応することがもはや不可能になった。ただ、より急速なEV投資によって相対的にうまく対応している企業があるのも確かだ。

韓国の現代自動車が26日発表した四半期決算は予想を上回り、その一因となったのは新型EVの好調な売れ行きだった。同社が示した今年のEV販売台数の伸び率見通しは54%と、テスラよりも高い。

競争激化でお互いの出資比率を見直す交渉を急いでいるのは日産とルノーだ。複数の関係者はロイターに対し、両社が2月6日までの合意発表を目指していると語った。

日産とルノーは以前、連合を組むことで規模の面から大きなメリットが得られると主張していた。その効果はなお残っている可能性はあるが、テスラや中国メーカーが同連合の販売シェアを奪おうとしているだけに、まずは自分たちの市場規模の維持に取り組まなければならない。

(Joseph White記者)

ロイター
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