ニュース速報

ビジネス

アングル:深センでロボタクシー日常化、中国が自動運転を加速 

2022年08月06日(土)08時19分

 混み合う市街地で突然、自動車の前にデリバリー用の自転車3台が横断歩道を横切って飛び出してきた。この自動車はスタートアップ企業、元戎啓行(DeepRoute.ai)が製造するセンサー搭載型「ロボタクシー」だ。写真は7月29日、深センで撮影(2022年 ロイター/David Kirton)

[深セン(中国) 1日 ロイター] - 混み合う市街地で突然、自動車の前にデリバリー用の自転車3台が横断歩道を横切って飛び出してきた。自動車のダッシュボードには、1990年代のビデオゲームに登場した3次元(3D)の青いブロックのように映る。

ハンドルは自動で旋回し、自動車は静かに停車した。「セーフティドライバー」が助手席からその様子を見守る。

この自動車はスタートアップ企業、元戎啓行(DeepRoute.ai)が製造するセンサー搭載型「ロボタクシー」だ。中国・深セン市の中心部、福田区では100台が走行しており、昨年は乗客を乗せて5万回の試験走行が実施された。

自動運転技術の試験ではこれまで、米国が先行していると考えられてきた。しかし深センが今ギアを上げており、ロボタクシーの試験走行があっという間に日常の風景になりつつある。

深セン市で試験走行を行っているのは元戎啓行のほか、インターネット検索サービス大手、百度(バイドゥ)の「アポロ」、トヨタ自動車が支援する「小馬智行(ポニー・エーアイ)」、日産自動車などが出資する「文遠知行(ウィーライド)」、中国電子商取引大手アリババが支援する「オートX」の各社。信号無視する歩行者が多く、電動バイクが走り回るこの都市の難しい環境下で走行している。

人口1800万人の深センは今、中国で最も明確な自動運転車の規制が整っている。8月1日からは市の広い範囲で、登録済みの自動運転車であれば運転席にドライバーが座らずに走行することが可能になる。もっともドライバー1人の乗車は義務付けられる。

今のところ中国各都市は、地元当局から許可を得ることを条件に、もっと限定的なロボタクシーの走行を認めている。しかし深セン当局は同国で初めて、事故時の法的責任を巡る重要な枠組みを整えた。

この枠組みでは、自動運転車でドライバーがハンドルを握っていた場合、事故の責任はドライバーにある。完全にドライバー不在の場合には、車両のオーナーが責任を負う。自動車の欠陥が原因で事故が起こった場合には、オーナーはメーカーに補償を求めることができる。

元戎啓行のマクスウェル・チョウ最高経営責任者(CEO)は「自動車が増えれば、ゆくゆくは事故も増える。従って広く普及する上で規制は非常に重要だ」と語る。「完全な無人運転が実現したわけではないが、大きな一里塚だ」と話す。

<アクセル踏む中国>

自動運転車の試験走行はこれまで、米国が先行してきた。カリフォルニア州は2014年から公道での試験走行を認めており、テスラとアルファベット傘下のウェイモ、米ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転車部門クルーズは数百万マイルの走行を実施済みだ。

しかし中国もアクセルを踏み込んでいる。中央政府は最新の5カ年計画で自動運転車を柱の一つに据えた。深センは2025年までに同産業の収入を2000億元としたい意向だ。

クルーズのダン・アマンCEOは昨年5月、バイデン米大統領に対し、米国の自動運転車安全基準では「トップダウンで中央指令型アプローチの」中国に遅れを取りかねないと進言した。

元戎啓行は深センで数年以内に、セーフティドライバーが乗るロボタクシーを1000台走行させたい意向だ。そのころには、もっと詳細な規制が整っていると期待している。

しかし深センは電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)のお膝元であり、国が保有する同社のEVタクシー2万2000台が低料金で走行している。このため自動運転車の製造コストが下がらなければロボタクシーは商業的に見合わないと元戎啓行のチョウCEOは語った。

元戎啓行などのロボタクシー企業は、コスト低下とデータ収集を目的に、大量生産に打って出ている。元戎啓行は3000ドル前後で他の自動車メーカーに自動運転車ソリューションの販売も行っている。

百度は7月21日、ハンドルが取り外せる新型自動運転車を発表した。価格は1台25万元と前世代型の約半分に抑え、来年からロボタクシーに活用する計画だ。

百度のロビン・リーCEOは「今のタクシー料金の半額でロボタクシーに乗れる未来へと向かっている」と述べた。

<井戸から飛び出すカエル>

深センはサプライチェーン(供給網)の充実と価格の低さという点で、シリコン・バレーに比べて製造上の大きな利点がある。

深センの自動運転車ソリューション企業、恵爾智能(Whale Dynamic)のデービッド・チャン創業者兼CEOは「深センは資本コストがカリフォルニアの3分の1で済む。バッテリーのサプライヤーがあり、センサーもあり、インテグレーションがほぼ整っているからだ」とした上で、「しかし収入はカリフォルニアの12分の1なので、魅力的な事業ではない」と指摘した。

元戎啓行、文遠知行、小馬智行の各社はシリコン・バレーにも事務所を構えて研究開発チームを置き、同地と深センの両方で試験を行っている。

「井の中に縮こまって他のカエルと闘うことは望まない。井戸から飛び出したい」とチャン氏は語った。

(David Kirton記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

11月ショッピングセンター売上高は前年比6.2%増

ビジネス

中国の海外ブランド携帯電話出荷台数、11月は128

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中