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焦点:日銀コロナ特別プログラム、役割終了の見方 政府対策など見極め

2021年10月21日(木)20時21分

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、昨年導入した資金繰り支援特別プログラムについて、役割を終えつつあるとの見方が日銀内で出ている。写真は2015年6月、東京で撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

和田崇彦 木原麗花

[東京 21日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、昨年導入した資金繰り支援特別プログラムについて、役割を終えつつあるとの見方が日銀内で出ている。企業の資金繰りが落ち着き、新たな資金需要が目立たなくなっているためだ。一方、新型コロナ感染が再拡大する懸念が残るほか、総選挙後に政府が打ち出す経済対策次第では期限を再延長すべきとの声もある。日銀は早ければ12月の金融政策決定会合で、終了か延長かを決めるとみられる。

<長期化のひずみ>

特別プログラムは感染急拡大で経済活動が停滞し、資金繰りに行き詰まった事業者への対応として昨年5月に打ち出した。新型コロナオペと上限20兆円のCP・社債買い入れの2つからなり、コロナオペの貸出残高は今年9月22日時点で約78兆円。6月の金融政策決定会合で、期限を来年3月まで延長することを決めた。

コロナオペは、利用残高に応じてプラス0.1%の付利を実施するとしたことで地方銀行を中心に利用が急増。金融機関が資金繰り支援を積極化した結果、企業の倒産は抑制され、政策効果を発揮した。

業種によってばらつきはあるものの、足元で企業の手元流動性は潤沢な状態だ。4―6月期の法人企業統計によれば、企業の手元流動性は売上高に対して20%程度と、コロナ前の15%程度に比べて上昇。日銀の統計でも、銀行・信用金庫計の貸出残高は過去最高水準となる一方、金融機関が貸し出しを積極化した前年の反動で対前年の伸び率は縮小傾向にある。日銀の担当者は、企業の資金需要は目立っていないと指摘している。

一方で、特別プログラムの長期化がもたらす「ひずみ」も顕在化しつつある。コロナオペの利用額は6月以降、拡大傾向にある。9月22日の貸付額は24兆1811億円で、6月の10兆7752億円の2倍以上。一方、銀行・信金計の貸出残高は6月から9月にかけて577兆円付近で推移している。

コロナオペの貸付額の大半がロールオーバーによるものとみられるが、日銀内では金融機関が付利を目当てに制度を利用しているのではないかとの懸念も出ている。金融機関にとってメリットが大きい制度を長く続けることで、融資規律が緩むことへの警戒感もある。

緊急事態宣言の解除で、制約付きながら飲食店は営業を活発化させている。日銀では、特別プログラムはコロナ禍での異例な政策対応であり、役割を終えつつあるとの声が出ている。

プログラムを終了する場合には、コロナオペを廃止する一方、金融緩和ツールの1つとして行ってきたCP・社債の買い入れは継続するなど異なる対応がとられる可能性がある。コロナ特別プログラムを終了しても、金融緩和の縮小に向かいつつある欧米の中銀とは異なり、日銀は物価目標2%の達成に向けて積極的な金融緩和を維持する見通しだ。

<カギは感染状況、政府の動向も見極め>

もっとも、新型コロナの感染が再び広がれば、特別プログラムの来年3月での終了は難しくなる。日銀は感染状況と企業の資金繰り状況を慎重に見極めた上で、早ければ12月にも特別プログラムの存廃を判断するとみられる。

昨年、政府・日銀は企業の資金繰り支援策を相次いで打ち出した。このうち、民間金融機関での実質無利子・無担保融資の申し込みは今年3月末で終了したが、政府が総選挙後に打ち出す経済政策を見極める必要があるとの声も出ている。コロナ対策で民間の資金繰り支援策を拡充すれば、日銀の特別プログラムも延長せざるを得ないとの声もある。

野口旭審議委員は14日の鳥取県金融経済懇談会での挨拶で、財政政策と金融政策の連携の重要性を強調した。特別プログラムについては「感染症の経済への影響が十分に和らいでいけば縮小させるべきものだが、その判断は慎重でなければならない」と述べた。

(和田崇彦、木原麗花 編集:石田仁志)

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