ニュース速報

ビジネス

アングル:バイデン政権の法人増税案、税率25%で企業と妥協か

2021年04月08日(木)18時43分

 4月7日、バイデン米大統領は2兆ドル(約219兆4200億円)規模のインフラ投資計画の財源を賄うため、連邦法人税率を21%から28%に引き上げる増税案を打ち上げた。ホワイトハウスで撮影(2021年 ロイター/Kevin Lamarque)

[7日 ロイター] - バイデン米大統領は2兆ドル(約219兆4200億円)規模のインフラ投資計画の財源を賄うため、連邦法人税率を21%から28%に引き上げる増税案を打ち上げた。しかし政権の内部関係者も含めて米政界には、税率が実際に政権の提案通りになるとみている人はほとんどいない。

バイデン氏は7日、記者団から28%を下回る税率でも合意するつもりかと問われ、「進んで耳を傾ける。条件を付けずに臨む」と述べ、妥協に前向きな姿勢を示した。

ロイターが企業関係者やインフラ投資計画に関わっているホワイトハウス当局者など数十人余りに取材したところ、大半はバイデン政権と業界団体が、自らの主張とは隔たりがあるとしても、双方にとって受け入れ可能な25%の税率で折り合うと予想した。

米大手エネルギー企業のロビイストは匿名を条件に「賛成ではないが、25%を見込んでいる。この水準ならわれわれの勝利とみなす」と話した。

トランプ前大統領と共和党は2017年に減税を導入し、法人税率は35%から21%に引き下げられた。しかし米大手企業の多くは実際の納税額がはるかに少ない。アルファベット傘下のグーグル、フェイスブック、メルクなど米国の多国籍企業は税負担の圧縮にたけている、と税や法律の専門家は指摘する。

バイデン氏は米経済の構造を改めて格差を是正し、中国の台頭に対抗しようとしており、その計画にとって4兆ドルの連邦予算における法人税収入の引き上げは重要な要素となる。

アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾフ最高経営責任者(CEO)は6日、インフラの抜本的な見直しの一環として法人税率引き上げを支持すると述べた。バイデン氏は先に、中流家庭に課される税率が20%を超えているのに対して、フォーチュン500社企業のうち91社は連邦法人税をまったく納めておらず、アマゾンはその1つだと述べていた。

バイデン氏のインフラ投資計画には、橋や道路、手頃な価格の住宅、高齢者介護職員などが対象に含まれている。

イエレン財務長官は7日、バイデン政権として法人税率の引き上げに加えて、会計上の利益に課税する「ミニマム税」、多国籍企業の海外収益に対する課税、税制の強化なども検討していると述べた。

<反対派からの支持欠かせず>

米商業会議所や民主党のジョー・マンチン上院議員(バージニア州)など反対派は、28%の税率は高すぎると主張している。ただマンチン議員は25%なら支持できるとの立場だ。議会上院は民主党と共和党の議席数が半々で、いかなる法案を通過させるにも、こうした反対派の支持が欠かせない。

バイデン政権は税率28%の提案が抵抗に遭い、身内である民主党の一部からも反発が出ることは分かっていた。事情に詳しい関係者3人によると、政権は税率25%も含めて、代替案について協議する用意があるという。

先に議会を通過し、3月半ばにバイデン氏が署名した新型コロナウイルス追加経済対策法案は、失業給付上乗せの期限が迫り緊急性が高かった。しかしインフラ投資計画は議論の余地があり、議会の役割はより重要になるとバイデン政権は考えている。

2013年に当時副大統領だったバイデン氏はオバマ大統領と、法人税率を35%から28%に引き下げ、製造業については25%まで下げることを提案したが、議会で阻止された。これまでのところ共和党は法人増税を支持しないと表明し、今回の計画は規模が大きすぎると批判している。

バイデン氏は7日にホワイトハウスで演説し「議論を歓迎する。妥協は不可避だ。修正があるのは間違いない」と述べた。バイデン氏は、近く共和党議員をホワイトハウスに招くと述べ、政権は「良いアイデアや誠意ある交渉を受け入れる用意がある」とした。

非営利団体「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」によると、法人税率が28%に引き上げられた場合の税収の増加額は8500億ドルで、インフラ投資計画の財源の大半が手当てできる。

一方、法人税率が25%なら税収の増加額は5000億ドル弱となり、民主党は別の財源を探すか、歳出を切り詰めざるを得なくなる。

バイデン氏は選挙戦で年間所得40万ドル以下の場合はいかなる家計にも増税しないとの公約を掲げていた。そのためガソリン税の引き上げや自動車マイレージ税の導入は政治的に非常に難しく、新たな財源探しは難航しそうだ。

CRFBのマヤ・マクギネス委員長は「非常に困難な公約だ」と話した。

(Jarrett Renshaw記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米はテック規制見直し要求、EUは鉄鋼関税引き下げ 

ビジネス

ウォラーFRB理事、12月利下げを支持 1月は「デ

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金の2年間延長を検討=報

ワールド

元FBI長官とNY司法長官起訴、米地裁が無効と判断
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中