ニュース速報

ビジネス

焦点:ボーイングの事故対応が一変、MAX危機の教訓学んだか

2021年02月26日(金)17時10分

 2月23日、約2年前、米ボーイングの主力旅客機737MAXが5カ月の間で2度目となる墜落事故を起こした際、同社は水面下で当局者に接触し、運航停止命令の回避を画策した。写真は20日、コロラド州デンバーの空港に引き返すユナイテッド機(2021年 ロイター/Hayden Smith/@speedbird5280)

[シアトル 23日 ロイター] - 約2年前、米ボーイングの主力旅客機737MAXが5カ月の間で2度目となる墜落事故を起こした際、同社は水面下で当局者に接触し、運航停止命令の回避を画策した。

働き掛けた先はホワイトハウスにまで及んだ。当時の最高経営責任者(CEO)、デニス・ミュイレンバーグ氏はトランプ前米大統領に電話し、737MAXの安全性に太鼓判を押してほしいと頼んだ。

しかし、米ユナイテッド航空のボーイング777―200型機が今月20日にエンジン故障を起こした時の対応は、2年前とは随分違っていた。この事故では負傷者こそ出なかったが、エンジンが炎に包まれたり、金属部品が米コロラド州デンバー郊外のあちこちに落下したりしている動画が拡散した。

今回のボーイングは24時間以内に航空各社向けの声明を出し、故障機と同じ米プラット・アンド・ホイットニー製の「PW4000」エンジンを搭載した777の使用を中止するよう要請。調査が行われている間、実質的に128機の運行を停止させる動きに出た。

さらにボーイングは、米連邦航空局(FAA)が出した特別検査の要請と、日本政府による航空各社への運航停止指示にも全面的な支持を表明した。

<「即座に行動」を最優先>

同社の考え方に詳しい業界筋は「ボーイングがMAXの一件から学んだことがあるとすれば、直ちに行動を起こすことだ」と語る。「その行動によって損失が出たり恥をかいたりするとしても、構わず即座に行動するということだ」という。

20日のエンジン故障に対する対応は、同社のブランドとイメージが試練に直面している実態を映し出した。ボーイングは現在、同社事業の中核となる商用ジェット機計画と財務の立て直しに取り組んでいる。

777のエンジン故障が起きた米国は、同社と規制当局や政治家がもたれ合う関係がほころびを見せるに至った「震源地」であり、他国に比べれば大きな航空事故はめったに起きないが、ひとたび起きれば、よそとは比べものにならないような注目を集めてきた国だ。

ユナイテッド航空機の故障は、同日にオランダでボーイング747─400型貨物機からPW4000エンジンの部品が落下した事故と相まって、ソーシャルメディア上で嵐を巻き起こした。拡散された動画は、空中でエンジンが出火していたり、落下したエンジンの大きな金属片が自動車のルーフに突き刺さったりした様子を示している。

当局の今の調査はボーイングではなくて、プラット・アンド・ホイットニーの子会社レイセオン・テクノロジーズが設計・製造したエンジンに焦点が向けられている。

それでも関係筋によると、20日にデンバー事故が一斉に報道された際、ボーイング幹部らはFAAに特別検査勧告を支持すると伝えた。数時間後には声明も公表した。事実上の運航停止となればユナイテッド以外のPW4000エンジン搭載機の運航にも影響するにもかかわらずだ。

米ダートマス大タック経営大学院のポール・アージェンティ教授は「ボーイングは再建し、協力し、責任を引き受けようと努力している」と話す。「評判」は同社にとって最も価値ある資産であり、信頼を築くには透明性の確保が必要になると指摘する。

ボーイング広報担当者はコメントを拒んだ。

<評価は時期尚早との見方も>

プラット・アンド・ホイットニーPW4000エンジンの飛行中の故障は他でも起こっていた。最近では昨年12月、羽田行きの日本航空(JAL)ボーイング777が那覇空港に引き返す事態となった。

プラット広報担当者にコメントを要請したが、返信は得られていない。同社は検査手順に関して当局と協力しているとの発表は行っている。

20日の事故は2件とも古い機体で起こった。また新型コロナウイルス感染の世界的大流行により、ボーイング製大型旅客機の需要が急減している最中の出来事だった。アナリストによると、古い機体の運航停止によってボーイングが被る金銭的な影響は比較的小さい。

これとは対照的に、737MAXで起きた危機は、ボーイングで最も売れている機種の設計に関わる問題だった上、時期的にも旅客需要が盛り上がっていたタイミングだった。

約2年に及んだ737MAXの運航停止はボーイングに約200億ドル(約2兆1100億円)の損失をもたらした他、刑事捜査や議会による調査、数百件の訴訟、ミュイレンバーグ氏を含む幹部の更迭につながった。ただ同氏はCEOとして遺族に謝罪し、取締役会を変革し、安全性の監督を向上させるためのエンジニアリング改革も進めた。

もっとも業界専門家は、ボーイングの対応ぶりを評価するのは時期尚早だと釘を刺す。MAX危機によって同社の企業文化がどう変わったかは、まだ分からないとしている。

ティール・グループの航空宇宙アナリスト、リチャード・アブーラフィア氏は「(今回の事故はMAX危機に比べ)背負うリスクはずっと小さい」と指摘。「ボーイングはMAX危機から何か学んだかもしれないが、今回の状況は、それを証明できるようなものではまだない」と述べた。

(Eric M. Johnson記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、米雇用統計控え上値重

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中