ニュース速報

ビジネス

焦点:米金融機関、コロナ支援策の不正問題で規制に戦々恐々

2020年10月23日(金)16時33分

10月21日、米金融機関が新型コロナウイルス支援策に絡む規制リスクに戦々恐々となっている。ニューヨークのバンク・オブ・アメリカ店舗前で4月撮影(2020年 ロイター/Eduardo Munoz)

[ボストン/ニューヨーク/ワシントン 21日 ロイター] - 米金融機関が新型コロナウイルス支援策に絡む規制リスクに戦々恐々となっている。

新型コロナの打撃を受けた中小企業に対する米政府の資金支援策「給与保護プログラム(PPP)」の窓口となった米金融機関は当初、総額5250億ドルの企業向けPPP業務は、愛国心に伴う贈り物で、小幅ながら自社の収入を押し上げるとみていた。

しかし金融業界の内部関係者や証券報告書、政府機関などによると、PPPは融資を受けた借り手の返済が免除され、税金で穴埋めされ始めており、JPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカなど金融機関はPPP業務に関連して今後数年間にわたり規制当局から調査を受ける可能性に対して備えを進めている。

オリバー・ワイマンの経営コンサルタント、ビビアン・メーカー氏は「不安は強い。金融機関は数年にわたる規制当局からの要請に備えており、PPPの規則を完全に守ったとしても、不正行為で評判が傷付くリスクがある」と述べた。

金融機関がPPPの窓口となって実行した融資は520万件余り。融資は借り手が財務上の必要性を示し、資金が従業員の給与支払いに充てられている限り、政府が肩代わりする。

米中小企業庁の調査によると、PPPは4月に導入されると、ほぼその直後から借り手の不正が起きた。非営利団体の政府監視プロジェクトによると、司法省がこれまでに摘発した不正は56件の82人で、融資額は約2億5000万ドルに上る。

これまでのところ貸し手の負担はほとんどが手続き業務に絡むものだ。法令順守問題で大手銀にアドバイスしているベテラン法律専門家によると、顧客銀行の対応は法執行機関からの召喚状が週20件程度で、そのほか文書の作成や従業員とのインタビュー設定などだ。

ただ、PPPを巡って金融機関が法的な責任を問われるとの懸念は高まっており、事情に詳しい関係者によると、既に法令順守に関する内部調査や投資家への警告が行われ、ローンポートフォリオを売却したケースもあるという。

少なくとも4行が株主向けの書類で、PPPの規制面や法律面のリスクについて警告。バンカメは7月、政府の経済支援策に参加したことで、評判が傷付き、政府が法的手続きに動いて裁判となり、集団訴訟となる恐れがあると投資家に警告を発した。

<起こり得るリスク>

専門家は起こり得るリスクとして、PPP申請の受け付け業務の先着順原則の違反、マイノリティーや女性がオーナーとなっている事業に対する不平等な扱い、返済免除の申請など書類の適切な保存、本人確認規則の順守などを指摘している。

米議会は3月、2兆2000億ドルのコロナ支援・救済・経済保障法(CARES法)可決。3500億ドルのPPP融資 はその一部で、その後規模が上積みされた。

金融機関はPPP融資の迅速な実行を求める圧力にさらされた。組成で最大5%の手数料収入が入るほか、政府保証融資に1%の金利が付くものの、当初は負債が大きすぎると懸念。政府から、借り手がPPPの規則に違反しても金融機関の責任は問わないとの約束を取り付けた。

10月の米議会報告によると、JPモルガン、PNCファイナンシャル・サービシズ・グループ、トゥルイスト・ファイナンシャルなど複数の金融機関で富裕層顧客向けの大型PPP融資の手続きが、最も融資を必要としている中小企業の2倍から4倍のスピードで処理されていた。PPP融資を既存取引先顧客に限っている銀行もあったという。

報告は米連邦準備理事会(FRB)のデータに基づき、女性やマイノリティーがオーナーとなっている事業は不平等な扱いを受け、これはこうしたオーナーが銀行との関係がこれまで薄かったためだと結論付けた。状況によっては、故意ではなくとも、こうした保護が必要なグループに打撃を与えるやり方は公正な融資規則に反する可能性がある。

報告によると、シティグループは法令順守面のリスクを認識していたが、需要が強く、人手の面で負担が少ないとの理由から、当初は既存顧客を優先することを決めたという。

シティグループはこの件についてコメント避けた。トゥルイストの広報担当者は、PPPの受け付けは先着順とし、一つの窓口で行っており、「規模が大きいかったり、有力な顧客への優遇は一切ない」と述べた。

<PPP融資の点検進む>

事情に詳しい関係者によると、JPモルガン、シティグループ、トゥルイスト、キーバンクなどPPP融資を手掛ける大手金融機関はいずれも、従業員によるPPPの規則違反を見つけるため、標準的な内部調査を実施している。

トゥルイストの広報担当者は「政府の重要な景気対策の実施に参加しており、不正の発見、対処、報告に向けて管理の徹底を続けている」と述べた。

ウェルズ・ファーゴは5月の当局への提出書類で、PPP融資の提供に絡んで連邦および州政府の当局から正式および非公式の調査を受けたことを明らかにした。

規制当局は調査を強化する意向を示唆している。中小企業庁は200万ドル余りのPPP融資を点検する計画で、同庁の監察官は最近、「乱用や不正が広がっていることを示す強力な証拠がある」と述べた。

米下院委員会の最近の分析によると、PPP融資で行われた不正、無駄、乱用などの規則違反は数万件に上り、同一の企業に複数回にわたって計10億ドル余りが貸し出された例もあった。

金融機関向けにアドバイス業務を行っている法律専門家、ジェームズ・スティーブンス氏は、銀行は資金を必要としている中小企業に融資しようと最善を尽くしたが、PPPの規則がすぐに変更されたため、不正や内部的ミスの温床が生まれたと指摘。「銀行に対する規制面の調査はいつでも手遅れになる。やってくるのはこれからだ」と話した。

(Lawrence Delevingne記者、Koh Gui Qing記者、Michelle Price記者)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ自動車対米輸出、4・5両月とも減少 トランプ

ワールド

米農場の移民労働者、トランプ氏が滞在容認 雇用主が

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

インドネシア中銀、追加利下げ実施へ 景気支援=総裁
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中