ニュース速報
ビジネス
焦点:超緩和時代の終焉、市場が迎える中銀流動性の「転換点」
8月18日、世界の金融市場を長らく満たしてきた中央銀行の流動性は、間もなく「引き潮」に転じる。ニューヨーク証券取引所で7月撮影(2018年 ロイター/Lucas Jackson)
[ロンドン 16日 ロイター] - 世界の金融市場を長らく満たしてきた中央銀行の流動性は、間もなく「引き潮」に転じる。超緩和時代の終焉に市場がどう反応するか、さんざん議論してきた投資家にとっても、情勢変化に順応するための猶予期間はわずか数カ月程度だ。
米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日銀、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)という世界の4大中銀は、2009年の金融危機以降、世界経済に約13兆ドルの資金を流し込んできた。しかし来年は2011年以来初めて、世界全体で資金供給額よりも吸収額の方が多くなるのだ。
ECBは年末に新規の債券買い入れを停止する。もうほぼ1年にわたってバランスシート縮小を進めてきたFRBも10月からは縮小ペースを加速させ、来年バランスシートから外す債券は4700億ドル相当に上る。
過去10年近く紙幣増発とゼロ金利が続いてきただけに、こうした変化は市場にとっても重大な意味を持つ。
ピクテ・アセット・マネジメントのシニア・マクロ・ストラテジスト、スティーブ・ドーンズ氏は、来年は世界の市場から差し引きで1000億ドルの流動性が減少すると予想。中銀の流動性が今年の差し引き5000億ドル供給から来年は吸収に転じる「明確な転換点」で、金融資産にとって来年は危険な年になるとの見方を示した。
金融市場には既に亀裂が見え始め、トルコ通貨危機や米中両国の貿易摩擦によって緊迫化している。新興国株は1月から20%も値下がりし、MSCIの世界株指数は月間ベースで3月以来の落ち込みを記録する流れだ。投資適格未満のドル建て社債の平均利回りは今年になって50ベーシスポイント(bp)上がった。
米国株は堅調な企業業績に支えられているとはいえ、S&P総合500種のオプション取引でコール(買う権利)に対するプット(売る権利)の需要度合いを示す「スキュー指数」からは、不安感の高まりがうかがえる。同指数は3月以降で最も高い水準にあり、つまりはプットの引き合いの強さを物語る。
<大きな痛み>
ピクテの試算では、4大中銀と中国人民銀行による計1兆ドルの流動性供給はMSCI世界株指数の20%上昇をもたらし、同額吸収されれば反対に指数は20%下がる。そして来年想定される差し引き1000億ドルの流動性吸収であっても、指数は小幅に下落するという。
アビバ・インベスターズのマルチ資産ファンドを統括するスニル・クリシュナン氏は、株高局面の終了こそ宣言していないが、株式と新興国市場への資金配分縮小に動いた。
クリシュナン氏は、市場はセンチメントとバリュエーションの両面で景気回復と緩和マネーの双方が手に入らない現実に適応していく必要があると指摘し、投資家はそれを今後数カ月で実行しなければならないと付け加えた。
新興国、とりわけ外国投資家を頼りにしているトルコや南アフリカは、流動性への依存度が高い。先進国でもイタリアはECBの緩和の恩恵を大いに享受していたので、流動性吸収が債券市場に打撃を与えた場合に受ける痛みもまた激しい。
ブラックロックのグローバル債券最高投資責任者リック・リーダー氏は「世界の流動性プールを先回り的に減らすのは、世界経済に広く有害な影響を及ぼす危険がある。イタリアにおけるここ数カ月の出来事は、そうした経緯を浮き彫りにしている」と警告した。
<流動性減少のブレーキ役>
コンサルティング会社クロスボーダー・キャピタルによると、世界の90%の中銀は現在引き締め的な金融政策をしている。筆頭は複数回の利上げを実施したFRBで、BOEも今月利上げに動いた。新興国の中銀も総じて引き締めモードだ。
また流動性吸収は中銀に限った話ではない。米国の税制改革が同国企業による資金の本国還流を促し、今年第1・四半期には世界各地から米国に3000億ドルが戻された。
もっとも流動性減少はなおゆっくりしたペースが続くかもしれない。日銀は最近、緩和の枠組み強化を狙った措置を打ち出し、出口への道筋を示すのではないかとの期待に水を差した。
さらにピクテのドーンズ氏は、米国のプライベートバンクが減税を追い風に年間6000億ドルもの流動性を生み出し、FRBの引き締め効果を相殺していると述べた。
そのFRB自体でさえ、貿易摩擦や新興国市場の動揺を理由に引き締めのスピードをもっと緩める可能性がある。
最後に中国は貿易摩擦に起因する経済の緊張を和らげるため、流動性供給を開始しており、同国の融資やマネーサプライの増加が世界的な流動性減少にブレーキをかけてもおかしくない。
ドーンズ氏は、今後見込まれるのは流動性が突然パニック的になくなるのではなく、真綿で首を絞められるようにじわじわと減っていく展開だとの見方を示した。
(Sujata Rao、Dhara Ranasinghe記者)