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焦点:国内生損保、18年度も苦悩の分散投資 オープン外債や海外社債に

2018年04月26日(木)20時03分

 4月26日、国内主要生損保の2018年度一般勘定運用計画がほぼ出そろった。2016年11月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 26日 ロイター] - 国内主要生損保の2018年度一般勘定運用計画がほぼ出そろった。国内低金利とドルのヘッジコスト高が続く中で、運用先の選定に一段と苦悩の跡がみえる。少しでも利回りが高い海外社債などへの投資を増加したり、円高局面でオープン外債を積み増す方針が多い。しかし、社債市場には過熱感があり、米金利上昇も景気を冷やしかねない。各社とも「機動的な投資」を掲げるものの、タイミングを見極めるのは容易ではなさそうだ。

<ドルのヘッジコストが悩みの種>

各社の運用担当者を悩ませているのは、ドルのヘッジコストの高止まりだ。本来なら、金利が低過ぎて投資できない日本国債の代替資産として、流動性が高い(いざというときにすぐ売れる)米国債に投資するのが理想的だが、為替リスクを回避するためのヘッジコストが高過ぎて、十分なリターンが得られない。

ドルのヘッジコストは、足元で2%後半と4月以降も高水準の推移が続いている。米利上げが大きな要因であり、今年残り2─3回の利上げが予想される中で、急低下は期待しにくい。10年米国債利回りは4年ぶりに3%に乗せたものの、ヘッジコストを差し引くと「手取り」はわずかになってしまう。

そこで今年度も為替ヘッジをしないオープン外債に投資先をシフトする動きが継続する見通しだ。ヘッジコストがかからないため、欧州主要国などと比べ高い米国の長期金利リターンをそのまま得られるほか、ドル高/円安になれば、為替評価益が得られる。

日本生命では「米利上げが続くなかで、ヘッジコストは上がっていく」(財務企画部長の秋山直紀氏)とみており、18年度の新規投資資金1兆円強のうち4000億円前後をオープン外債に充てる方針だ。

大手では第一生命も積み増す計画。中堅生保では、三井が2400億円、富国が2200億円、朝日が1000億円の増額方針を示している。

<オープン投資、難しいタイミング>

ただ、問題は、各社ともそれほどドル高/円安が進むとみていないことだ。各社の今年度のドル/円の予想レンジの上限は、112─120円。昨年10月時点では117─125円が予想のレンジだった。日米欧の金融政策の方向性の違いから、緩やかな円安予想は多いが、予想の「天井」は下がっている。

このため、多くの運用担当者は「一時的な押し目の円高局面で積み増したい」と異口同音に話す。水準はまちまちだが、ドル/円で105円を割ってくれば検討したいとの声が多い。ただ、「ずるずる円高が進まず、比較的早期に(ドル高方向へ)戻ることが期待される局面」であることが条件だとされる。

円高が進むケースは地政学リスクなどが顕在化し、金融市場ではリスクオフの動きが強まるような場合が多い。米長期金利も低下しがちだ。ドル/円が、そのまま下落するか、反転するかの読みは難しい。

実際、昨年10月末時点では、各社のドル/円における今年3月末予想は110─120円だった。だが、実際の着地は106.24円。円高局面を捉えてオープン外債投資を積極的に行う動きも一部ではみられたが、予想外のドル安/円高進行で評価損が膨らむ生損保もあった。

オープン外債投資は、相場次第でリターンが大きく変わってくる。投資のタイミングをうまく捉えることができるか、運用担当者の「腕」が問われよう。

<オープン投資は「小休止」の計画も>

国債や社債、事業債を買う以外にも、海外の不動産やインフラ投資には外貨が必要だ。米国向けであれば、為替をヘッジしようと思えばコストがかかる。各生損保が進めている運用の高度化、多様化のなかで「資産全体をみると、為替リスクがかなり溜まってきた」(国内生保の運用担当者)との声も出てきた。

このため、今年度はオープン外債投資を控えめにする運用計画もみられている。

これまで積極的なオープン外債投資が目立っていた明治安田生命では、今年度の新規投資額2兆5000億円のうち50%を、円債とヘッジ外債との間で機動的に配分を変える「可変枠」に充てる。実際は「日本国債への投資は(低金利継続が予想される)今年度の相場見通しの下では難しい」(執行役副社長の山下敏彦氏)ことから、ヘッジ外債への配分が多くなる見通しだ。

三井住友海上火災は、前年度に米国債をオープンで200─250億円、外国株に150─200億円、それぞれ投資したが、18年度はいずれも残高横ばいを見込む。「去年まで増やしてきたのでいったん小休止。エクスポージャーを調整しながら様子をみる」(財務企画部の投資業務チーム長、真野智典氏)という。

<ヘッジ外債、クレジット物にもリスク>

財務の健全性を測るソルベンシーマージン比率を計算するうえでのリスク係数は、オープン外債の10%に対し、ヘッジ付外国債は日本国債と同じゼロ%。円金利資産の代替としてのヘッジ外債のニーズは依然として高い。

しかし、米国債に投資しても、現状では為替ヘッジを付ければ十分なリターンが得られない。そこで中心となるのは、社債や事業債などいわゆるクレジット物だ。米社債は米国債よりも利回りが高く、市場の流動性も比較的高いとされる。

ただ、国債との利回り格差であるクレジット・スプレッドは縮小。主要国の中央銀行が緩和的な政策を維持する中で、マネーが流れ込んでいるためで「バブル的な様相を呈している」(BNPパリバ証券・チーフクレジットアナリストの中空麻奈氏)との指摘も出ている。

米国以外の欧州などの国債を為替ヘッジ付きで買う動きもある。ユーロのヘッジコストは、ドルとは逆にプレミアム(上乗せ金利)が得られる状態だ。ドイツやフランスの10年債利回りが1%に届かないなど、絶対的な利回りは低いが、「分散投資」の観点からも、1つの流れになってきそうだ。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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