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アングル:世界の物価、債券市場よそに低トレンド持続も
2月16日、債券市場は、世界の物価がついに上向きになったと宣言したように見える。しかしデータ面ではまだそれは確かに裏付けられてはおらず、金融危機以来の低いトレンドはまだしばらく続くかもしれない。米ロサンゼルスの食料品店で昨年11月撮影(2018年 ロイター/Lucy Nicholson)
[ロンドン 16日 ロイター] - 債券市場は、世界の物価がついに上向きになったと宣言したように見える。しかしデータ面ではまだそれは確かに裏付けられてはおらず、金融危機以来の低いトレンドはまだしばらく続くかもしれない。
米国債の場合は、トランプ政権による大型財政刺激策という他の地域・国にはないインフレ要素を心配している面もある。実際、世界経済に対する楽観的な見方は変わらないはずなのに、欧米の中央銀行は今年の政策運営で対照的な道を歩もうとしている。
米連邦準備理事会(FRB)は、国内経済が力強く成長しているところで降ってわいたように減税と歳出拡大による巨額の財政刺激が加わったため、年内に3回利上げする公算が大きい。市場では利上げ回数が4回になるとの観測も強まりつつある。
しかし欧州中央銀行(ECB)は依然として緩和姿勢を保ち、最短でも9月までは毎月300億ユーロの債券買い入れを続けようとしている。利上げ時期となると、来年のかなり先以降になりそうだ。
こうした政策運営の大きな違いは、米国の景気拡大がより成熟した局面にある面も影響している。4.1%という失業率はこれ以上下がれない水準に近く、それだけ賃上げを通じたインフレ圧力が強くなるだろう。
それでも欧米とも変動の大きい要因を除くコアの物価上昇率は、少なくともこれまでの予想では、いずれも歴史的に非常に低い伸びにとどまるとみられている。
ロイターが民間エコノミストを対象に実施した最近の調査によると、主要国・地域の物価見通しに大きな変化はない。FRBが2%を目標としているコア個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率が、今年もしくは来年3%に達するとの回答はゼロで、来年の予想中央値は9カ月前の調査開始からずっと2%となっている。
もちろん突然物価上昇が加速する可能性がないとは言えないが、直近の米雇用統計と賃金急上昇について詳しく調べた何人かの専門家は、落ち着いた状況が続くというシナリオを提唱する。
ラボバンクは米賃金上昇についての2種類のモデルに基づく推計で、今後2年の上昇率は3.0─3.3%がピークだと予測した。つまり、数週間前に発表され、債券市場を動揺させた1月の賃金上昇率2.9%からそれほど大幅には上振れない見込みだ。
過去2年間のロイター調査で示された米賃金上昇率の予想中央値で最も高かったのも3.2%だ。
ラボバンクのエコノミスト陣はこうした賃金上昇率の予想について「現在よりは高いが、FRBが好ましいと考えている3─4%のレンジでは下限付近だ。同時にこれらのモデルからは、米国が既に景気循環のピークに迫っていることが分かり、経済成長とそれに伴う最終的な賃金の伸び、物価上昇率のリスクは、次第に下方向に傾きつつある」と述べた。
米国の景気拡大はこれまでに102カ月に達し、大方の予想通りあと2年続くと過去150年余りで最長を記録する。
コメルツ銀行のチーフエコノミスト、ヨルク・クラマー氏は、世界的に物価がまだ低い伸びのままになりそうな、より幅広い説明を行っている。過去30年にわたって緩やかな賃金上昇と低物価を標準的な状態にしてきた主要な要因が、突然なくなることはないという。
クラマー氏は「グローバリゼーションとデジタル化の進展により、失業率低下への賃金上昇の反応速度がかつてよりも鈍っている」と指摘。コメルツ銀の調査では、現在米国の失業率が1%ポイント下がっても、コア物価上昇率は0.1%ポイントしか高まらず、この上昇率は世界金融危機前の想定の3分1の程度という結果になった。
コメルツ銀は、ユーロ圏についても同様の結論を下している。
ただ英調査会社ファゾムなど、ごく一部には物価トレンドの大きな変化が進行していると考える向きも存在する。
ファゾムのシニアエコノミスト、ブライアン・デービッドソン氏は「われわれ独自の分析からは、大半の主要国・地域は昨年末までに需給ギャップがプラスになっており、この先2年もトレンドを大幅に上回る成長が続けば、多くの地域で物価を想定よりも急速に高める要因になる」と警告した。
ファゾムは、今年と来年のFRBの利上げ回数の予想を3回と1回からともに4回に引き上げている。
(Ross Finley記者)