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アングル:「世界の工場」に淘汰の兆し、中国が抱えるジレンマ

2016年03月02日(水)08時01分

 2月29日、春節(旧正月)の長い休暇を終えて、中国製造業の中心地に戻ってきた多くの出稼ぎ労働者は、先の見えない将来に直面している。写真は河北省の製鉄所で昨年11月撮影(2016年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東莞市(中国) 29日 ロイター] - 春節(旧正月)の長い休暇を終えて、中国製造業の中心地に戻ってきた多くの出稼ぎ労働者は、先の見えない将来に直面している。とりわけ小規模な工場が、受注低迷と在庫増加に苦しんでいるからだ。

中国輸出の約4分の1を占め、「世界の工場」と称される広東省の珠江デルタ──。ここで働く労働者や経営者によれば、2週間に及ぶ春節休暇後の製造ラインの稼働ペースは、例年よりも緩やかだという。

同省東莞市にある西城工業区では、壊れた機械が散在し廃墟となった工場がいくつか見られる。また、工業用地とされる区画も、村人たちが野菜を作るために使われたりしている。これらは中国製品に対する需要が弱まっている兆しであり、事業閉鎖を強いられたり賃金を圧迫している。

「給料の良い工場を見つけるのが私たちの望み」と話すのは、1月に工場を解雇された18歳の女性。彼女は新たな仕事を求めて工場の門をたたく数多くの出稼ぎ労働者の1人だ。

「でも気を付けなくては。多くの工場が食事や住む場所を提供していない。給料の支払いも遅れていたりする。だまされたくない」と、この女性が話すと、一緒にいた友人4人はうなずいた。

こうした女性らの苦境は、これまで成長の原動力となってきた低価格製品を生み出す製造業からの転換をはかりたいが、次の成長基盤を支えてくれるであろう消費者の職も必要という中国指導者のジレンマを体現している。

また、産業が整理され労働者の福利も圧迫されるなか、労働運動家は混乱が起きるリスクを指摘する。

<製造業の縮小>

経済規模が一国のインドネシアよりも大きな広東省だが、その輸出の伸びは、政府による1月の報告書によれば、今年はわずか1%の見通しだという。

輸出市場より国内需要に応える小さな工場が景気減速の打撃を最も受けているということは、中国の消費者が同国経済のリバランスで必要とされるほどには代わりを務めていないことを示すもう一つのシグナルだと、専門家は指摘する。

金融市場の安定化に躍起となり、昨年に成長率が過去25年で最も弱い6.9%まで減速している中国の政策当局者にとって、これは悪いニュースだろう。

時計工場を営む男性は、難民危機や英国の欧州連合(EU)離脱の可能性といった欧州情勢の不確かさが、欧州で消費マインドを一段と弱らせ、中国の工場にも影響を及ぼしかねないと語る。

「一定数の工場は規模を縮小したり、移転したりといった何らかの変化を経験することになるだろう」と、この男性は指摘。「市場動向に従うしかない。年央までに十分な受注がなければ、人員を削減しなければならないだろう。だが当面は、今の労働力を維持したい」

<淘汰>

珠江デルタで求人の簡易ブースや看板がほとんど当たり前な光景であることに変わりないが、向こう数カ月で労働市場はさらに引き締まるとみられている。

「企業の淘汰(とうた)が予想される」と、東莞市トップの徐建華・中国共産党東莞市委員会書記は最近の記者会見で語った。

徐氏は、同市では昨年に外資系約500社を含む3万9000社が倒産したとする一方、同時期にそれを上回る数の新たな会社が登録されたと強調。向こう1年は「経済的な課題がますます複雑化する」と、徐氏は指付け加えた。

一方、中国で米アップルの受託生産を行う台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業<2317.TW>の子会社Foxlinkのような安定した収入源を持つ一部の大規模な工場では、見通しは明るいように見える。

同子会社の採用担当者は、多くの工業区が行き詰まっているとしたうえで、「われわれの会社は新たな労働者を必要としている。今でも多くの受注がある」と語る。

東莞市にある工業区の一部の労働者の話からは、労働争議やストが起きる可能性の高まっていることがうかがえる。

「給料を払ってもらえなかった何人かの友人が、政府は何も助けてくれなかったと言っているのを聞いた」と、同市の自動車工場で働く労働者は休憩中にタバコを吸いながら、こう答えた。「政府は役立たずだ」

中国の指導部にとって本当の課題は、そのような失われた製造業の「生態系」の末端に取って代わるため、彼らが奨励しようとしているバイオテクノロジーやロボット工学などの分野で新たな仕事を十分に創出できるかどうかだ。

「一般的に、雇用状況は流動的だ。工場が閉鎖される一方で、新たな製造分野で機会は生まれているが、問題はこれらの仕事が持続可能かということだ」と、労働者の権利を擁護する監視団体「中国労工通報」のジェフリー・クロソール氏は指摘する。「多くの新興企業が失敗しており、そうした企業が提供する仕事はたいてい賃金が低いか、まともな労働条件ではなかったりする」

(James Pomfret記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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