ニュース速報

焦点:遠のくEVの夢、テスラ追う中国メーカーに資金調達の壁

2019年06月24日(月)16時14分

[香港/北京 19日 ロイター] - 昨年、ウェイ・チン氏を中心とするプライベートエクイティ(PE)投資チームは、中国国内の電気自動車(EV)製造スタートアップ企業を20社以上訪問した。

だが、最終的な結論は「どのスタートアップにも投資しない」だった。

上海を拠点とするセイリング・キャピタルのマネージングディレクターを務めるウェイ氏は、「初期段階のビジョンを発表する時期、さらには試作車を製造し資金を調達する時期、そして最終的に大量生産への移行の可否に至るまで、あまりにも不確実性が大きい」と語る。

ウェイ氏は、チームが訪問したEVメーカーの名前を明らかにしなかったが、「生き残るのは数社にすぎないだろう」と話している。さらに彼は、セイリングでは代わりにEVの部品サプライヤーに投資することに決めた、と言う。

ウェイ氏が示す懸念は、中国のEVメーカーにとって資金調達がますます厳しくなるという銀行関係者の説明と符合する。中国政府がEV関連の補助金の削減・段階的廃止を進めるなかで、EVメーカー各社は、乱立状態にある業界内で注目を集めることに腐心し、将来の収益性について説得力ある主張をひねり出さなければならない。

持続的な収益性を追求しているテスラが多くの障害に悩まされていること、EV販売台数の急減、さらには中国のEVメーカー、ニオ(蔚来汽車)(NIO)の複数の車種がトラブルに見舞われていることも、投資家の警戒心を高めている。

調査会社ピッチブックによれば、今年に入ってからの中国のEVメーカーによる資金調達額は、6月中旬の時点で7億8310万ドル(約850億円)に留まっている。これに対し、昨年同時期は60億ドル、2018年通年では77億ドルだった。

香港で活動するあるバンカーによれば、これまでに新たな資金を求めるEVメーカー少なくとも10数社からのアプローチを受けたが、そのほとんどについては投資を見送ったという。競合他社との差別化ができていなかったからだ。

資金調達の努力が実を結んだ場合でも、EVメーカーが期待しているほどのペースでは進んでいない。

今年からあるプロジェクトの資金調達に関わりはじめたこのバンカーは、「課題が多い」と話している。「投資家と会う機会さえあれば、必ず話は聞いてもらえる。だが、ミーティングを申し込んでも返事すらしない投資家もいる」

このバンカーは、交渉が非公開であることを理由に、氏名を明かすことを拒否している。

<補助金廃止の打撃>

大気汚染の改善と国産自動車産業の活性化に意欲を燃やす中国は、自動車販売全体のうち、ハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車、燃料電池車など、いわゆる「新エネルギー車」(NEV)が占める比率を、現在の5%から、2025年までに20%に拡大したいという考えを示していた。

このような構想を受けて、多数のEV関連スタートアップが誕生した。相互に競い合うだけでなく、グローバルな自動車メーカーや、今年中国での生産開始を予定しているテスラもライバルだ。

政府のデータによれば、何らかの種類の補助金を申請しているEV関連企業は約330社に及ぶが、比較的しっかりしたスタートアップの数はそれよりもはるかに少なく、約50社だ。

一部の企業が政府の資金に過度に依存するようになったという批判のなか、中国政府は補助金を削減し、車両に求められる要件を厳しくし、2021年以降は補助金を完全に廃止するという方針を示している。

これを受けて、車両価格の上昇とともに、販売は急激に減速していった。前年比で見たNEVの販売台数は、4月が18.1%増、2018年通年では62%増だったのに対して、5月はわずか1.8%の微増に留まっている。

南京を拠点とするEVメーカー、バイトンのダニエル・カーシャートCEOは、現在の資金調達環境のもとで生き残るにはコスト面での厳しい規律が必要だ、とロイターに語った。

「現在の状況を考えると、どのようなスタートアップでも、優れた製品を作って迅速に商品化するだけでは不十分だ。少なくとも、コスト管理が同じくらい重要になっている。固定費だけでなく、変動費も含めてだ」とカーシャート氏は言う。

国営自動車メーカーの中国第一汽車集団(FAWグループ)、バッテリーメーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)<300750.SZ>の支援を受けるバイトンは、5億ドルを目標とする資金調達が順調に進んでいる数少ないEVメーカーの1つだ。

これ以外には、国営の上海電気集団とセコイア・キャピタル・チャイナに支えられる零跑汽車が3億7200万ドル、シリアルアントレプレナー(連続起業家)の李想氏が設立した車和家信息技術が5億ドルもの資金調達を目指している。

今年これまでに資金調達を成功させた企業としては、百度(バイドゥ)の支援を受けた威馬汽車などがあり、ピッチブックによれば、3月に4億4600万ドルの調達を実現している。

プライベートエクイティ以外の形で資金を獲得した企業もある。北京市政府系ファンドの北京亦庄国際投資発展は、NIOとの合弁事業に100億元を投資する予定であり、これによってNIOは自社工場を建設できるようになりそうだ。

<テスラとNIOの苦悩>

とはいえ、全般的にはEV産業における資金調達の展望は大幅に悪化している。特に、テスラとNIOの悩みは深い。

5月、テスラ創業者のイーロン・マスク氏は社員に対し、最近調達した27億ドルを加味しても、第1・四半期のペースで損失が続けば、わずか10カ月で収支はマイナスになると告げた。EV産業の先駆者であるテスラの株価は、年初来32%下落している。

NIOの株価はさらに厳しい打撃を受けており、納車予定台数の引き下げや第1・四半期の収益が前四半期比で半減したこと、また競争激化と補助金削減を受けて、今年に入って60%下落している。また、同社製車両に関する評判も低下している。車両火災が3件発生したほか、北京市内のメインストリートである長安街でドライバーが車載ソフトウェアの更新を開始したところ予期せぬ機能停止に陥る事例があったためだ。

NIOはコメントを拒否している。

EVスタートアップ企業である小鵬汽車(シャオペン)の社長で、元JPモルガン幹部だったブライアン・グー氏は、「現在、上場している有力EVメーカーの一部銘柄はセカンダリーマーケットでのパフォーマンスが振るわず、このセクターの短期展望に対するプレッシャーが生まれている」と語る。

「投資家は以前よりも注意深く投資先を選別しており、先行企業を重視するようになっている。このトレンドはこれからも続く可能性が高いと思う」

威馬汽車に対する投資家の1人は、プライベートエクイティ投資家のEV産業への投資意欲について、さらに悲観的な見解を口にする。

「中国のEVスタートアップのなかでも、恐らくNIOが最高の企業だろう。だが、そのNIOの現状を見れば、他のEVスタートアップのために快く資金を出す気になるだろうか?」

この投資家はNIOの株も保有していたが、今年になって手放したという。

(Kane Wu記者、Yilei Sun記者、Julie Zhu記者、翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロとウクライナの高官協議終了、2月1日に再協議へ

ワールド

トランプ氏、中国との貿易協定巡りカナダに警告 「1

ワールド

アングル:中国で婚姻数回復傾向続く、ドレス業界が期

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 8
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 9
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中