ニュース速報

アングル:ハワイ大噴火から1年、住民生活の「ニューノーマル」

2019年04月08日(月)16時17分

Terray Sylvester

[カポホ(米ハワイ州) 4日 ロイター] - ダリル・クリントンさんは昨年、何週間もずっとハワイ島にある友人宅のデッキの特等席からキラウエア火山を眺めていた。だが、地面の割れ目から噴き出た「溶岩爆弾」がポーチに飛んできて、足を失いかけてからはその地を離れた。

約1年前、キラウエア火山が歴史的な大噴火を起こし、大勢の住民が避難を余儀なくされ、700以上の家屋が破壊された。クリントンさんは1日、住宅地に続く仮設道路を再開したとのハワイ郡の発表を受け、この友人宅に戻るため車で向かった。

クリントンさんと隣人らは現在、ハワイの人たちが「キプカ」と呼ぶ、固くなった溶岩流に囲まれた土地にいる。

クリントンさんと最近戻ってきた他の住民らは、たとえそこが北米有数の活火山のふもとであろうとも、温暖な気候の中で美しい環境に囲まれ、安く生活できるので戻ってきたと口をそろえる。

「競争社会では生きたくない。ここではそんなことはない」と58歳のクリントンさんは言う。クリントンさんは2006年に家族と共に、ここカポホに移住してきた。そして電気やガスのない家を建て、庭園を始めた。

キラウエアは現在、「正常(ノーマル)」に戻っていると、米地質調査所(USGS)は3月26日に発表した。

「過去8カ月におけるキラウエア火山の活動に基づき、噴火活動が起きていないことから、USGSハワイ火山観測所はキラウエアの警戒レベルをノーマルに引き下げた」と、USGSの広報、ジャネット・バブ氏はメールで語った。

<ニューノーマル>

戻ってきた住民にとって、これは「ニューノーマル」と言える。皆がそれを心待ちにしているわけではない。

ポーリーンさんとエディさんのマクラーレン夫妻は、山火事で自宅に残されたすすを掃除していた。夫妻の自宅にも電気やガスは通っておらず、わずかな年金で暮らしており、約1.21ヘクタールの牧場に馬を放牧していた。生活は楽ではなく、噴火が昨年起きる前は自宅を売るつもりだった。現在、自宅の不動産価値はほぼなくなったと夫妻は考えている。

「結局、私たちが戻ってきたのは、他に行くところがどこにもなかったから」と、78歳のポーリーンさんは言う。「私たちはもうここから離れることはできないと思う」

ポーリーンさんによると、夫妻は米連邦緊急事態管理庁から4000ドル(約45万円)の住宅扶助のほか、山火事で燃えた牧場のフェンスの修理費として中小企業庁から9000ドルの支援を受けた。

ポーリーンさんは、次に噴火が起きるときにはもう死んでいるので怖くはないと話す。「次の停車駅はあの世ね」と、ポーリーンさんは足元の地面を指差しながら冗談を言った。

<精神的な課題>

キャリー・フィッシャーさん(59)は、自身と夫のハラルドさんにとって、ほぼ被害を受けなかった自宅に戻って生活できるのは喜ばしいことだと話す。新たな噴火について心配はしていないという。

「おかしなことだけど、次の噴火をあまり心配していない。一度それを経験したから。噴火が起きる前には警告がたくさん出ていた」

一番の課題は精神的なことだとフィッシャーさんは言う。自宅周辺を囲む固まった溶岩のことはなるべく考えないようにしている。「簡単に出られないと考えないようにしている」

噴火により、約22カ所の割れ目から溶岩が噴き出し、最大6メートルの高さの溶岩の壁ができた。最大で高さ15メートルの噴石丘もあちこちに出現した。雨が降ると、まだ冷却中の溶岩から水蒸気の煙が上がる。

イングリッド・ウェブさん(34)は、夫と4人の子どもと共に6ヘクタールの有機農場に戻れてうれしいと話す。作物にとって最適な気候と土壌をもたらすイースト・リフト・ゾーンでの生活を他で再現できる場所は思いつかないという。

ウェブさんによると、主な悩みの種は仮設道路でしかコミュニティーにアクセスできないことだ。今のところ、住民しかこの道路を利用できない。修理工も農場労働者も使えない。

だが、それでも戻る価値はあるとウェブさんは言う。

「これが私たちの未来。子どもたちの未来。農場は子どもたちの大学進学資金のためよ」

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀CEO支持せず、米資産売却のアナリストリポ

ワールド

ウィットコフ米特使、プーチン氏と22日に会談へ 「

ビジネス

独経済、米追加関税回避なら26年に1%成長も=産業

ビジネス

商業銀行マネー、将来は完全に「トークン化」へ=イタ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 5
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生…
  • 6
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 9
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 10
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中