ニュース速報

アングル:うま味調味料、ネガティブイメージに変化 味の素は積極姿勢に転換

2019年04月02日(火)14時27分

[東京 2日 ロイター] - 味の素<2802.T>が「うま味調味料」の誤解の解消に向け、手応えを感じている。きっかけは2018年9月に米国で開催したイベントで、同社がモニターしている食の分野における影響力のある人の認識に変化の兆し出ているためだ。西井孝明社長は米国発で高まっているフェイクニュースへの関心を追い風に、今が風評払拭のチャンスと捉えており、コミュニケーションをさらに強化していく方針だ。

<うま味調味料と都市伝説>

「トランプ大統領の誕生でフェイクニュースへの関心が高まり、消費者が今まで正しいと思っていた情報が本当に正しいのかを調べ始めた。すごいチャンスが来た」──。西井社長はこう述べ、今こそうま味調味料に対する誤解を解く時期だと強調した。

社名にもなっているうま味調味料「味の素」は、グルタミン酸ナトリウム(MSG)が主な原材料。日本では、サトウキビなどから作られている。1908年に東京帝国大学の池田菊苗博士が昆布だしのおいしさの正体がグルタミン酸であることを発見。その味を「うま味」と名づけ、後に甘味、塩味、苦味、酸味に続く基本的な味として認められた。

グルタミン酸はトマトやチーズ、ノリなど様々な食品に含まれ、体内にも存在する。つまり、私たちは日ごろから意識せずにグルタミン酸を口にしているわけだ。

にもかかわらず、製造されたうま味調味料にだけ、拒絶反応を持つのはなぜか。原因の1つに米国の科学者が1968年に発表した論文がある。

中華料理店で食事をした後に顔のほてりや頭痛などの症状が出たのは、MSGが原因──。「中華料理店症候群」と名づけられたこの症状は、後にうま味調味料を大いに苦しめた。

その後、多くの研究によって中華料理店症候群とMSGに何の因果関係もないことが科学的に示されたが、「風評」は消えないまま、今日に至っている。

西井社長は「うま味調味料が身体に悪いというのは都市伝説に過ぎないが、安全性の論議に20年近くもかかってしまったために、一社では手に負えないくらいに風評が社会に根付いてしまった」と話す。

米国ではパッケージに「NO ADDED MSG」と書かれている食品がいまだに存在する。MSGを添加していないという意味で使用しているが、もとの成分にMSGが含まれている食品もあり、消費者に誤解を与えかねないとして見直す動きも進んでいる。

<無添加・無化調と安全>

日本はどうか。日本でMSGは食品衛生法第10条に基づき、厚生労働大臣が安全性と有効性を確認した「指定添加物」に登録されている。指定添加物は2018年7月3日時点で455品目あり、化学的合成品だけでなく、天然物も含まれる。

この指定添加物であるということが米国とはまた違った問題を引き起こしてる。「無添加イコール安心・安全」というイメージだ。

日本では「食品添加物不使用(無添加)」や「化学調味料無添加(無化調)」と書かれていると安心・安全だとイメージする消費者は多い。実際、「化学調味料は使っていません」、「無添加のつゆです」などと掲げ、無添加であることを売りにしているラーメン店やそば店もある。

こうした風潮に対し、内閣府・食品安全委員会の委員を昨年まで9年間務めたお茶の水女子大学・基幹研究院自然科学系食品貯蔵学研究室の村田容常教授は「添加物は安全性試験を通ったものしか認められていない。添加物を使うか使わないかは価値観の問題なので自由だが、使ったら危ないということは決してない」と述べ、「添加物イコール危険」とみなす考え方を批判した。  ただ、日本では安全性の問題とは別に、本来の味がわからなくなるといった否定的な意見もある。

<フードインフルエンサーに変化>

ニューヨークで2018年9月に開催された「ワールドUMAMIフォーラム」には、世界15カ国から229人が参加した。

西井社長はMSGを積極的に使うようになるには、まだ時間がかかるとしながらも「フォーラムで味の素という企業に対するイメージはポジティブに変わった」と手応えを感じている。

味の素は、食に関心の高い栄養士や料理人ら米国に1000万人いると言われる「フードインフルエンサー」の一部を対象に、MSGの認識に関する定点調査を実施しているが「この調査が動き始めた。まだ満足するレベルではないが、効果が少しずつ表れてきている」(西井社長)という。

味の素のインフルエンサー調査によると、2018年1月時点で39%あった「MSG入りの食品を避ける」との回答は、同年11月時点で33%まで低下した。

西井社長は「おそらくネガティブイメージはゼロにはならないが、約4割いる『MSGは何となく身体に悪い』と思っている人を半減させたい」と語った。

(志田義寧 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中