ニュース速報

焦点:回復弱い生産、マイナス成長観測浮上 追加対策求める声

2019年03月29日(金)14時57分

[東京 29日 ロイター] - 2月鉱工業生産速報で判明したのは、前月の大幅な落ち込みを回復できなかった反発力の弱い生産の実態だ。1─3月期の生産が前期比マイナスに転落する公算が大きく、政府内では1─3月期にマイナス成長となる可能性がささやかれている。

今年10月の消費増税実施の環境を整えるため、追加経済対策が必要との声が経済財政諮問会議の民間議員などから出ているが、安倍晋三首相が経済の下振れリスクを重視すれば、3度目の消費増税延期も現実味を増すとの観測が与党サイドから浮上している。

<1─3月期の生産、前期比マイナスの公算大>

2月の生産は前月比プラス1.4%、3月予測指数は同1.3%、4月予測指数は同1.1%だった。

ただ、2月は反発したとはいえ回復力が弱く、1月の低下を補うことができなかった。経済産業省は「自然災害の影響もあって生産が低下していた昨年9月より低い水準。それほど大きな回復とは言い難い」と分析。生産が足踏みから抜け出ていないとみている。

3月の予測指数は、企業の生産計画から算出したが、経済産業省が上方バイアスを考慮した試算値では0.4%のプラス幅にとどまる。

プラス1.3%を前提にした1─3月の生産水準は前期比マイナス2.5%の水準にとどまる。バイアスを踏まえれば、前期比のマイナス幅が一層大きくなる可能性が高い。

4月の予測指数はプラスとなり、「企業の生産計画自体は強気とも言える」と経済産業省はみているが、このデータには4月末からの10連休を控えた増産計画の影響が含まれていることにも注意が必要だ。

<景気後退へぎりぎりの局面>

こうした情勢を踏まえ、経済官庁の中では「景気は微妙な局面に差し掛かっている」(関係者)との見方が広がり始めている。

景気動向指数で「悪化」との判断に至れば景気後退局面に認定されかねないため、今はぎりぎりの局面だとの認識だ。

昨秋以降の輸出・生産動向が弱く、中国経済の減速が想定以上に国内製造業に影響している可能性があり、政府内では「内需への波及が食い止められるかどうか、見極めたい」(経済官庁関係者)というムードに傾いている。

民間エコノミストの間でも、2月生産がプラスを確保したことから、2月分の景気動向指数では「悪化」が避けられそうだとの見方が多数となっている。

ただ、3月は「悪化」に変わる可能性があり、「景気後退リスクが高まる」(第一生命経済研究所・主席エコノミストの新家義貴氏)との予測もある。

<外需次第で国内経済に大きな打撃の声>

日本の生産減速の背景には、中国経済にかかったブレーキの影響が色濃く存在している。1、2月の実質輸出は2018年10─12月の水準を2.8%下回っており、これが生産にも反映された形だ。3月以降の輸出の行方が、引き続き景気を左右する構図となりそうだ。

政府の経済財政諮問会議の民間議員、竹森俊平・慶應義塾大学教授は「日本経済はGDP(国内総生産)成長率と輸出の相関が高くなっている。輸出を起点に設備投資にも影響する」と指摘する。

高齢化による節約や人口減少に伴って個人消費のウエートが一段と衰えていくため、従来以上に外需主導の構造が強まり、輸出が経済成長に与えるインパクトがますます大きくなるためだ。

そこに米国による中国製品への関税制裁が長引く事態が加われば、日本のGDPに大きな打撃になりかねないと懸念している。

政府内にも「1─3月期のGDPは、前期比マイナス成長となる可能性を排除し切れない」(経済官庁幹部)との声がある。

この1年間は自然災害後の振れもあり、実質的には成長が止まっているとみられ、「世の中の印象としては、景気後退という感じになるかもしれない」(別の経済官庁幹部)との見方もある。

<追加経済対策の思惑、消費増税延期の観測も>

そうはいっても、今のところ政府内に今年10月の消費増税の延期を予想する声はほとんどない。

官僚からみれば、今さら増税をとりやめればすでにコストと人手をかけて準備している企業の混乱を招き、教育無償化や老朽化インフラ対策など、予定通り実施せざるを得ない政策の財源を失う事態に直面し、財政赤字が一段と悪化することになるからだ。

また、経済財政諮問会議の民間議員が同会議で、リスクが顕在化した場合に内需拡大へとつながる機動的なマクロ政策を「ちゅうちょなく」実行することを2度にわたり提言。消費増税を確実に実施する経済環境を整えるため布石を打とうとしているとの観測も、政府関係者の間で出ている。

だが、7月の参院選を前に、与党サイドでは増税反対の声もくすぶっている。ある与党関係者は「野党がリフレに目覚めつつあり、立憲民主党が参院選前に増税凍結や減税を打ち出せば、安倍首相も対抗するだろう」との見通しを示す。

仮に安倍首相が3度目の延期を決断した場合、補正予算による追加対策は立ち消えとなる可能性もかなりありそうだ。

(中川泉 取材協力:竹本能文 編集:田巻一彦  )

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中