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アングル:ソフトバンク、売出価格割れの船出 収益懸念で

2018年12月19日(水)20時16分

[東京 19日 ロイター] - ソフトバンク<9434.T>の東証1部上場は、多難な前途を予感させるスタートとなった。売出価格割れの初値は、通信料金の値下げ圧力や中国製装置の入れ替え費用など、目先の収益圧迫要因への投資家の不安の表れともいえる。先日は大規模障害も発生、通信網に対する信頼回復も急務だ。株主還元にこだわれば、長い目で見た利益を失いかねないリスクもある。

<通信障害で重い処分も>

6日午後に発生した全国規模での大規模障害。通話やメールだけでなく、物流や電子チケットにも影響が及び、通信インフラ企業の責任が一段と重くなっていることをあらためて印象付けた。

ソフトバンクは、障害の原因がスウェーデンの通信機器大手エリクソン製の交換機のソフトウエアに異常が発生したためと説明したが、業界では「あまりにもお粗末だ」との声が少なくない。

関係者によると、ソフトバンクは今後、フィンランドの通信機器大手ノキア製機器の導入し、エリクソンとのデュアル体制にすることで大規模障害が起こらないシステムを構築する。

ソフトバンクは収益向上を目指し、通信事業に関わっている従業員の4割を2─3年かけて人工知能(AI)関連など成長事業に振り向ける計画を公表した。

だが、今回の大規模障害で通信網の信頼性に傷が付いたことから、戦略の見直しを迫られる可能性もある。

総務省は今回の通信障害が電気通信事業法上の「重大事故」に該当すると判断。原因究明や再発防止策などの報告を求めている。報告を受けたうえで処分を検討する方針だが、同省のある幹部は「根本的な原因はメーカー側にあったとは言え、何も知らなかったでは済まされない。かなり重い処分になるだろう」との認識を示した。

<ファーウェイ切り替え>

日本政府が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]製品の排除を事実上決めたことも、同社にとっては逆風となる。

政府関係者の1人は「対象は政府調達で、民間に排除要請はしない」と強調するが、ソフトバンクは政府の方針を受け、ファーウェイ製機器を欧州メーカー製に切り替える方針を固めた。

米携帯電話子会社スプリントとTモバイルUSの合併計画をめぐる米規制当局による安全保障審査も、ファーウェイ排除の背中を押した。

ソフトバンクは今後、ノキア製機器の導入と併せ、ファーウェイ製機器の切り替えを進めていく方針だが、市場では追加費用の発生に不安も広がっている。

<売出価格を2.5%下回る>

この日の初値は1463円と売出価格1500円を2.5%下回った。相場全体の地合いの悪さに加え、上場直前に相次いだトラブルも投資家の心理を冷え込ませた。

しんきんアセットマネジメント投信・運用部長の藤原直樹氏は「市場の地合いの悪化や通信障害の問題などがネガティブに作用した。IPO(新規株式公開)の環境、タイミングが悪かった」と指摘する。

ソフトバンクが上場にあたり公表した2019年3月期の業績予想は、売上高が前年比3.3%増の3兆7000億円、営業利益は同9.7%増の7000億円、最終利益は同4.8%増の4200億円と増収増益を見込んでいる。

配当性向は85%を目安に、安定的な配当を目指す方針だ。

しんきんアセットの藤原氏は「配当利回りが高いうえ、TOPIX銘柄への組み入れによるパッシブ系ファンドの買い需要もある。株価はある程度は底堅く推移する」とみているが、「1500円を上回ったところでは一定の売り圧力が見込まれる」としている。

これまでソフトバンクは、派手な投資で話題を振りまいているソフトバンクグループ<9984.T>の影で、利益創出については比較的柔軟に対応してきた。しかし、今後は投資家の目も意識しなければならない。

通信網の信頼回復や通信機器の切り替え、政府による値下げ圧力など、対応すべき課題は山積みだ。人工知能(AI)関連など「非通信」事業を育てながら、直面する課題にも対応する困難な道のりが待っている。

*本文7段落目の誤字を修正しました。

(志田義寧 取材協力:長田善行 編集:田巻一彦 石田仁志)

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