コラム

与謝野離党でも変わらぬ党内力学

2010年04月05日(月)16時42分

 

孤独な戦い 目立つ存在ではあっても一匹狼にすぎない与謝野
Issei Kato-Reuters
 

 4月3日、かつて自民党の総裁候補にまでなった与謝野馨元財務相が、谷垣禎一総裁に離党届を提出した。自民党執行部に批判的だったとして3月に役職辞任に追い込まれた園田博之元自民党幹事長代理も、今週早々に離党する見通しだ。

 2人とも平沼赳夫元経済産業相に合流するとみられている。平沼と言えば、05年に郵政民営化に反対して離党して以来、他の郵政造反組が自民党に舞い戻るなか無所属を貫いてきた人物。平沼は、少なくとも安倍晋三元首相の突然の辞任直後の07年10月頃から、民主、自民両党に続く「第3極」としての保守派新党の結成に意欲を見せていた。この構想を言い続けて数年が経ち、平沼は今がその時だと思っているに違いない。平沼は、夏の参院選に向けて4月中にも新党を立ち上げるつもりだ。

 平沼が現在まで新党立ち上げを待ってきたのは、ありもしない「ニッチな無党派層」を狙っているからだと私はみている。さらなる保守派政党など、どこに必要なのだろう。いったい誰が、平沼の第3極を待ち望んでいるというのか。平沼による「真正保守」政党の立ち上げ構想については以前にも述べたが、これは幻想以外の何物でもない。

 では、「真正保守」からは程遠い与謝野が、なぜよりによって平沼と同盟を結ぶのか。誰も説得力のある答えをもっていないようだ。園田は、自分たちが新党を立ち上げるとしたら政策上は自民党に近いものになると示唆してきた。つまり平沼の新党は渡辺喜美の「ネオリベラルな」みんなの党とは違い、独自の路線を新たに切り開くことにはならないだろう。

 与謝野の離党は、自民党にとってどんな意味を持つのか。先日、鳩山邦夫元総務相が離党したところだ。これで、この1カ月の間に麻生前内閣の閣僚2人が自民党を離れることになった。つまり与謝野の離党は、改革者になろうという者にとって離党という道がより魅力的になっていることを示しているようだ。

 とはいえ、自民党議員が党内批判の声を失ったということではない。谷垣には自民党内部から党の全面的な改革か、さもなくば総裁辞任だという容赦ないプレッシャーがかかっている。先週は自民党議員約50人が派閥解消を提言するために懇談したが、谷垣は「派閥をいらないと思う人は派閥を出ればいい」と言うのみだった。以前より谷垣と自民党執行部に対する批判の急先鋒は舛添要一前厚生労働相で、彼は党執行部を「戦略も能力も気力も欠けている」と酷評している。

■派閥ごと離党してはどうか

 しかし、こうした批判の声や改革派の離党にも関わらず、党幹部や派閥のトップらが沈黙を黙っているところをみると、谷垣まだ支持を得ているようだ。舛添も与謝野も目立つ存在ではあるものの所詮は一匹狼。派閥に属さず緊縮財政路線と消費税増税を公言する与謝野の戦いが孤独なものであることは、周知の事実だ。与謝野も舛添も、党内で十分な支持を獲得できず、党幹部を動かして谷垣に対抗することができないでいる。

 自民党からの離党や党内批判がどのような影響をもたらすかは、その規模にかかっている。派閥のトップが下の者を従えて派閥ごと自民党から飛び出すか、もしくは派閥を自ら解消して改革派にまわったとしたら、自民党を新たな方向に導くことができるかもしれない。

 だが今のところ、自民党は相変わらず小泉純一郎政権が終わったときから続く戦いを繰り返しているだけだ。古参者が党を動かし、異端扱いされる改革派は支持固めと党幹部を批判するためのメディア工作に苦心している。これまでと違う点は、有権者が民主党にも自民党にも満足していないため、自民党からの離党がますます魅力的な選択肢になっているということだ。

 自民党は生きながらえるかもしれない。だが党幹部が党刷新を決意して改革派に道を譲り、党内の競争力を高めるまでには、もっと大きな党内批判の声か、さらなる離党が必要だろう。

[日本時間2010年4月3日(土)15時16分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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