コラム

北朝鮮船はオバマを釣る金正日の罠

2009年07月01日(水)17時20分

 この2週間というもの、外交官や専門家は米軍が追跡している北朝鮮の貨物船「カンナム号」の行方を神経質に見守ってきた。今それが針路を変えたらしく、国防関係者もそのねらいを測りかねている


 米政府関係者は火曜に、禁輸対象の武器を積んでいる疑いがあるため米海軍が1週間以上前から追跡してきた北朝鮮の船が向きを変え、北に戻り始めたと語った。

 この針路変更の意味を、アメリカも国際社会も推し測りかねている。カンナム号はどこへ行くのか。積荷には、国連安全保障理事会が6月12日に新たに採択した北朝鮮に対する追加制裁決議に違反する武器が含まれているのか。

 この国連決議は、禁輸物資を運んでいる疑いがある船舶を公海上で発見した場合、船籍国に乗船と貨物検査の許可を要請するよう促している。もし拒絶されれば、船が寄港した国が検査を要請できる。

 北朝鮮は、同国船籍の船に対するいかなる干渉も戦争行為とみなすと言ってきた。

 米政府関係者2人は火曜早くに、カンナム号はここ数日、速度を極端に落としており、燃料を節約しようとしている可能性もあると語っていた。

 2人とも、針路変更の意味や原因はわからないと言う。

 アメリカのスーザン・ライス国連大使は日曜に、米政府は「船の動向を注意深く監視している」と語ったが、米軍がカンナム号の貨物検査を求めるかどうかについては語らなかった。


■ブッシュと同じ恥をかかされる

 予想外の針路変更の前から、米政府関係者の一部にはすでに、カンナム号のそもそもの任務自体を疑う声が出始めていた。


 ホワイトハウス内では、これを「行き先のない航海」と呼び始めたところだった。

 ホワイトハウスの担当者はもう2週間以上、南シナ海をのろのろと南下するカンナム号に関する最新情報を頻繁に受け取ってきた。6月中旬以降のある時点で、オバマ大統領の側近たちは、ミサイルや武器の長い密輸歴をもつこの老朽船は、国連の追加決議に対する最初の挑戦なのではないかと考えた。

 だがオバマ政権幹部の一部は今、まったく別の可能性を考え始めている。金正日(キム・ジョンイル)総書記は初めから、アメリカの新しい大統領を「釣る」ためにカンナム号を漁に駆り出したのかもしれない。

「どうも合点がいかない」と、カンナム号の怠惰な航海を追跡してきたある政権幹部は言う。「われわれが貨物を見せろと派手な要求をして、緊迫の睨み合いをした後にどうなるか。結局は金正日の罠にかかって、『ありもしない大量破壊兵器を探すジョージ・W・ブッシュ』の二の舞になるのではないか。それが心配だ」


 これが「バカは見る」のトリックだとしたら、金正日はもしかするとチャーリー・ブラウンをいつも引っかけているルーシーからこの手を学んだのかもしれない。

──ジェームズ・ダウニー
[米国東部時間2009年06月30日(火)17時35分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 1/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の習主席、女性の政治進出拡大呼びかけ 世界女性

ビジネス

ベイリーFSB議長、G20に金融市場クラッシュの恐

ワールド

途上国の債務問題、G20へ解決働きかけ続ける=IM

ビジネス

米アマゾン、年末商戦に向け25万人雇用 過去2年と
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story