コラム

民主主義は独裁より安上がりか?

2009年06月20日(土)07時43分

 ロサンゼルス・タイムズ紙に、今も続くジンバブエの悲惨な人権蹂躙(じゅうりん)に関する記事が掲載された


 人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは6月18日、ジンバブエでは深刻な人権侵害が続いていると述べ、ロバート・ムガベ大統領の与党が暴力を有用な政治的手段と考えていると非難した。

 6日間ジンバブエに滞在したアムネスティのアイリーン・カーン事務総長は、人権向上には資金が足りないとする政府の弁明を退けた。

「人権活動家への攻撃を止め、メディアへの制限を取り除き、市民による抗議行動を許可するのに資金は必要ない。必要なのは政治的意思だけだ」と、彼女は声明の中で述べた。


 しかしイランで大統領選挙後に起きている状況を見ると、ある疑問も浮かんでくる。独裁政治と民主主義はどちらが高くつくのだろう?

 カーンの声明は直感的にはとても正しく思える。デモを許し、メディアに書きたいことを書かせ、NGO(非政府組織)を機能させることは、彼らを監視したり抑圧するより安上がりだ。警察国家には金がかかる。

 しかし作家のポール・コリアーが指摘するように、独裁者が国の民主化を進めると自分の権力を失いかねず、権力を失いたくなければ国民の幸福を維持しなければないが、大抵それには金がかかる。

 苦労して集めた税金や天然資源による収入、外国からの援助資金をなぜ学校や病院の建設に使わなければならないのか。機動隊に新しい警棒を買い与え、残った金をスイス銀行の自分の口座に送金することもできるというのに。

 さまざまな統計を掲載するウェブサイト、ネイションマスターのデータからは、GDP(国内総生産)に占める政府支出の割合と、国の政治体制の間に大きな相関関係は見られない。全体主義国家の中にはこの割合が非常に高い国(キューバは57%)も、非常に低い国(トルクメニスタンは13%)もある。

 ジンバブエの割合はかなり高い。だが国の経済の根本がかなりゆがんでいるため、データは多くを意味しない。

 それでも私はカーンの声明は間違っていると思う。ジンバブエの現状は、市民を抑圧して富をエリートに集中させるという前提に立っている。この国を民主主義に改宗し、国民の福祉を増進すれば安くはすまない。

 私はムガベ政権やほかの強圧的な国家を擁護しているわけではない。しかしジンバブエでもイランでも、民主化を支持する者たちは経済にも政治にもコストの問題が存在することを理解すべきだ。

――ジョシュア・キーティング


Reprinted with permission from FP Passport, 22/6/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏新党結成「ばかげている」、トランプ氏が一蹴

ワールド

米、複数の通商合意に近づく 近日発表へ=ベセント財

ワールド

米テキサス州洪水の死者69人に、子ども21人犠牲 

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story