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ベトナムと日本人

ヨシヒロミウラ|ベトナム

ベトナム外交は「レーダーチャート」で出来ている

ベトナム外交レーダーチャート(例)

▪️外交を説明する一つの図

ベトナムの国際政治を理解するうえで、私はよく「レーダーチャート」を思い浮かべる。企業の人材評価や性格診断で使われる、複数の項目を放射状に配置したあの図だ。どの能力が強く、どこが弱いのかが一目で分かる。現在のベトナム外交は、まさにこのレーダーチャート型の戦略で動いている。

▪️「竹外交」と呼ばれる柔軟さ

ベトナム政府は自国の外交を「竹外交(Bamboo Diplomacy)」と説明してきた。竹は風に合わせてしなり、しかし折れない。つまり大国同士の対立の中でも柔軟に対応しながら独立を守るという思想である。
だが実際の外交関係を観察すると、その構造は竹というより、むしろレーダーチャートに近い。複数の国との関係を同時に伸ばし、外交全体のバランスを取る戦略だからだ。

▪️米国との関係強化

まず注目すべきは米国との関係だ。2023年、ベトナムは米国との関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げした。これはベトナム外交のレーダーチャートにおいて、「安全保障」と「ハイテク産業」の軸を大きく伸ばす動きと言える。
半導体やAI関連のサプライチェーン再編の中で、米国企業はベトナムを中国依存から脱却する重要拠点として見ている。

▪️中国との微妙な距離

しかしベトナムは中国との関係を切ることはない。中国はベトナム最大の貿易相手国であり、政治体制も共産党政権という共通点を持つ。
南シナ海では領有権問題を抱えながらも、経済関係はむしろ拡大している。レーダーチャートで言えば、「経済」と「政治関係」の軸を維持し続けている状態だ。

参考記事:ベトナム人の中国嫌いはどこから来るのか? 歴史が形づくる感情の正体

▪️日本と韓国という産業軸

さらに、日本と韓国もベトナム外交の重要な軸である。
日本は長年にわたり最大のODA供与国であり、都市鉄道、港湾、道路、工業団地など多くのインフラが日本の資金と技術で整備されてきた。
一方、韓国は最大の直接投資国であり、サムスンの巨大生産拠点はベトナム輸出の象徴的存在になっている。

▪️「どこにも依存しない」戦略

ここで重要なのは、ベトナムがどこか一つの国に依存していない点である。
米国、中国、日本、韓国、欧州、ASEAN。それぞれの関係を一定の距離で保ちながら、レーダーチャート全体の面積を広げていく。これがベトナム外交の本質だろう。

冷戦時代、多くの国は「どちらの陣営につくのか」という直線的な選択を迫られた。しかし現在のベトナムは違う。複数の軸を同時に伸ばし、外交のバランスを保ちながら国家利益を最大化している。

▪️ベトナムは「接続国家」になりつつある

言い換えれば、ベトナムは同盟国家ではなく「接続国家(コネクティング・ステート)」として振る舞っている。
大国同士の対立の間に立ち、すべての方向と関係を持つことで自国の存在感を高める国家である。

米中対立が長期化する世界では、この戦略はむしろ強みになる。どちらか一方に大きく依存する国はリスクを抱えるが、複数の軸を持つ国は柔軟に動くことができる。

もし世界各国の国際外交をレーダーチャートとして描くなら、ベトナムは今、その面積を確実に広げている国の一つだ。そしてその形は、バランスが取れている。

▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x

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