
イタリア事情斜め読み
伊メローニ首相のアフリカ戦略が変える地政学
| イタリアが歴史に名を刻む瞬間
東西の綱引きが激化する中、対等な「協力」という新しい関係性を構築するイタリアの外交戦略
ジョルジャ・メローニ首相がアディスアベバで開催されたアフリカ連合の第三十九回通常総会に招待国として演説した。この出来事は単なる一国の指導者の訪問ではなく、国際政治における新しい地軸が生まれつつあることを世界に知らしめる象徴的な瞬間であった。
アフリカは今、世界史の周辺から中心へと舞台を移している。かつては先進国による援助と搾取の対象とされたアフリカ大陸が、いまや地政学的な最重要地域として台頭している。人口増加、天然資源、戦略的位置、そして経済成長の可能性。これらすべてが先進国と新興国の競争拠点となっている。その中でイタリアは静かに、しかし着実に新しい立場を構築している。
メローニ首相が強調した「協力」という概念がここで重要となる。ラテン語の語源に遡り、コ・オペラーレ、つまり「共に働く」という意味を持つこの言葉は、単なる一方的な援助ではなく、対等なパートナーシップを意味する。これはアフリカ諸国が過去三十年間、国際社会で感じてきた欠落感を埋める新しいアプローチである。
「プランマッテイ」(マッテイ計画)が示す持続可能な国際パートナーシップの可能性
マッテイ計画は、二年前に始まったイタリアの野心的なアフリカ戦略である。表向きは単なる開発支援プログラムに見えるかもしれないが、その実質は地政学的な計算と理想主義が融合した新しい形の国家戦略である。知識、技術、インフラストラクチャー、人材育成、投資という五つの柱は、アフリカ連合が2063年アジェンダで定めた目標と完全に合致している。
ここに一つの洞察がある。本当の戦略的パートナーシップは、相手国が望むものを提供することから始まる。相手国の議題を自分の議題とすることからはじまる。多くの大国がアフリカに対して「これを受け入れろ」というアプローチを取ってきた一方で、イタリアは「あなたたちの優先事項は何か、それにどう貢献できるか」というスタンスを貫いている。
第二の柱は債務問題への革新的な対応である。メローニ首相が発表した債務転換プログラムは、アフリカの脆弱な国々を苦しめてきた重荷を投資へと変える仕組みである。これは経済政策ではなく、アフリカ諸国の政治的安定と経済成長を直接支援する仕組みである。気候災害に見舞われた国々への債務猶予は、地球規模の課題に対するイタリアの責任感を示すと同時に、アフリカの気候災害に対する脆弱性に寄り添う姿勢を表現している。
第三の柱は移民問題への根本的なアプローチである。メローニ首相は、アフリカから欧州への移民問題の真の解決策は、強硬な国境管理ではなく、アフリカで豊かで安全な生活を可能にすることにあると明言している。人々に「自分の国に留まり、その成長に貢献する自由」を与えることこそが、無謀な地中海横断による死亡事故を防ぐ唯一の道である。この主張は右派のポピュリズムとは一線を画し、根本的な人道性と現実的な政策判断が融合した発言となっている。
イタリアが特に重視するのは水資源に関するプロジェクトである。アフリカにおける水不足は飢饉、紛争、さらには国家の破綻をもたらす深刻な問題である。この分野への投資は単なる開発支援ではなく、地域の安定化と人道的危機の防止に直結している。
現在の国際政治構造を見れば、米国の関心がインド太平洋へ向けられ、中国がアフリカへの経済的影響力を深める中で、欧州はアフリカとの関係性の再定義に迫られている。グローバルゲートウェイ構想を通じた欧州連合全体のアフリカ関与と、イタリアのマッテイ計画は相互補完的な役割を果たしている。
メローニ首相の演説で注目されるのは、アフリカを「周辺」ではなく「中心」として語ったことである。「イタリアとヨーロッパの未来は、安全で繁栄し平和なアフリカにかかっている」という発言は、単なるリップサービスではなく、現在の世界の構造を正確に分析した上での戦略的宣言である。
イタリアがアフリカ連合で名誉を受ける背景には、過去の帝国主義的な関係性を清算し、本当の意味での対等なパートナーシップを構築しようとする努力がある。ローマ帝国以来、イタリアは常に地中海を中心とした世界観を持ってきた。その歴史的な視点を二十一世紀的に再定義することで、イタリアはアフリカとの深い関係性を構築する立場を得ている。
重要なのは、この戦略がイタリア一国の利益のためだけではなく、欧州全体、そしてアフリカ大陸全体の利益を考えた枠組みであることだ。地政学的競争が激化する中で、こうした「互恵的利益」に基づく国際パートナーシップのモデルは希少価値を持つ。
メローニ首相は2026年2月14日のアフリカ連合総会で演説。マッテイ計画を軸に、援助依存から投資・パートナーシップ中心へ移行し、イタリアをアフリカとEUの橋渡し役に位置づけた。移民問題解決のため共同開発を強調し、相互利益の関係構築を訴えた。pic.twitter.com/CItQqDJVZZ
-- ヴィズマーラ恵子 (@vismoglie) 2026 年 2 月 14 日
最後に、メローニ首相がアディスアベバで達成したことは政治的勝利を超えている。「ローマは再びアフリカの歴史に名を刻んだ」という言葉に込められた意味は深い。それは過去の栄光への執着ではなく、未来の世界秩序における主要な行為者としてのイタリアの地位確認である。
アフリカが世界の中心へ移動しつつある今、イタリアの外交戦略がどのように展開するかは、欧州全体、そして国際秩序全体の未来を左右する要素となる。プランマッテイが示すのは、単なる一国の対外戦略ではなく、二十一世紀の国際関係が進むべき方向性そのものである。対等性、相互尊重、長期的投資、そして人道性に基づいたパートナーシップ。これこそが、米国の衰退とヨーロッパの混迷の時代において、イタリアが世界に提示できる貴重な政治的メッセージなのだ。



- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie





















































