World Voice

England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

ラマダンをきっかけにイスラム教に触れる取り組み

本文で紹介しているロンドン中心地のイルミネーション、ラマダン・ライツ。わたしが最初に見たのは昼間で、次に夜に行ったら雨が降っていてよい写真が撮れなかったので、こちらのきれいな写真でどうぞ。大きく書かれている「ハッピー・ラマダン」という言葉は英語っぽい表現だなあと思うけれど、英国で迎えるラマダンだから、それもいいのか、とも思う。写真 iStock coldsnowstorm

 イスラム教では今、聖なる月、ラマダンを迎えている。太陰暦を使うラマダンの期間は毎年変わり、今年は3月22日から4月21日だ。よく知られているように日の出から日没まで断食をして食べ物のありがたみを感じるほか、喫煙や性行為、言い争いなどの欲望、ゲームやスマホなどの娯楽を断つか慎むかして自分を見つめ、寄付や奉仕に励み、家族や友人との時間を大切にして他者への思いやりを呼び覚ます。イスラム教徒にとっては自分の信仰心を深める、神聖で特別な1か月だそうだ。

 英国はもともとキリスト教国だけれど、戦後に旧植民地から移民を労働力として積極的に迎えたこともあって、イスラム系の移民も多い。2021年の国勢調査によれば、イングランドとウェールズに住むイスラム教徒の数は約387万人。人口の6.5%を占めている上、この国で生まれた2世、3世も増えている。それなのに価値観の違いから、誤解や偏見が少なくない。そんな中、ラマダンをきっかけにイスラム教に知ろう、知ってもらおうという取り組みが行われている。

 そのひとつが、今年初めてロンドンに灯されたラマダンのイルミネーション、ラマダン・ライツだ(冒頭の写真参照)。ラマダン期間中は月を象ったライトが毎夜点灯されている(ライトは23日まで)。飾られているのは、ピカデリー・サーカスからレスター・スクエアにかけてのコベントリー・ストリート。ミュージカルの劇場や土産物店が立ち並び、観光客がひしめくロンドンのど真ん中だ。この飾りは、素材に工夫があるのか、昼間に見ても日光を反射して月がきらきら光っている。そしてそれをたくさんの見物客や通行人が嬉しそうに見上げて、写真を撮っている。大きく書かれている「ハッピー・ラマダン」という言葉は英語っぽい表現だなあと思うけれど、英国で迎えるラマダンだから、それもいいかもしれない。

 これを実現させたのは、北ロンドンに住むアイシャ・デサイさんだ。きらびやかなロンドンのクリスマス・イルミネーションを見て育ったイスラム教徒の彼女は、数年前に中東で暮らした時、ラマダンの夜にはイルミネーションもあり、遅くに人が繰り出して街が華やぐのを見た。この雰囲気を自分が育った街にも再現したいと思うようになり、昨年は地元の幹線道路沿いにインスタレーションを設置した。そして今年、ついにロンドン市内にイルミネーションを飾ることができた。

ラマダン・ライツを紹介するアイシャさん。話の様子から、英国生まれか、そうでなくても幼い頃からこの国に住んでいたと思われる。ムスリマ(イスラム教徒の女性のこと)だけれど、ご覧の通り、ヒジャブなどは被っていない。明るく活発な話しぶりも、日本にいた頃にわたしがぼんやり抱いていたイスラム女性のイメージとは違う。思えば、彼女たちも人それぞれということがわかったのも、ロンドンに住むようになってからだった。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ