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ラッシャー貴子|イギリス

ラマダンをきっかけにイスラム教に触れる取り組み

 大規模な取り組みだけでなく、日常生活でも気づきや学びがある。わたし自身、ロンドンに暮らし始めてから、ラマダンを少しずつ身近に感じるようになった。イスラム教徒の友人や知り合いから直接、「今ラマダンだからお茶に行けない」「今年のラマダンは夏至に近いから日没が遅くてちょっと大変」と聞くようになったからだ。冒頭に書いたラマダンの簡単な説明も何年かの間に聞いた話を合わせたものだし、年齢や体調で断食に例外があるということはわりと最近になって知った(ちょっと考えたら当然のことなのに気づかなかった!)。この記事を投稿しようとしていたついさっきも、ラマダンの終わり=イードと自動的になるわけではなく、月の様子によるので、日が近づくまで確定しないらしいと教えてもらった。まだまだ知らないことが多い!

 友人が勤める大企業には社内にイスラムのコミュニティーがあり、毎年、ラマダン・チャレンジ、つまりイスラム教徒でない人がラマダンの断食を1日体験するイベントを開催するそうだ。これに参加した彼女の感想は、「お腹が空くのは何とかなるけど、水が飲めないのは辛い」だった。何となく予想できることではあるけれど、頭で想像しているのと、実際に体感するのとでは大きな違いがありそうだ。断食の経験や感覚を共有することで、イスラム教徒(彼女の場合は主に同僚)への親しみが増すのではないかしら。

 別の友人はお子さんが通う中学校の話をしてくれた。イスラム系ではないこの学校でも、ラマダンの期間には生徒を気遣って、たとえば体育で激しい運動を避けるとか、すぐに食べられる軽食を配るという配慮をするそうだ。まだ成長期だものね。そしてこれは、他の子どもたちにもよい影響がありそうだ。毎日の学校生活で、自分にはない習慣やそれを温かく見守る教師の姿に接する彼らは、異なる価値観を受け入れて、それを尊重する姿勢を自然に育みやすくなるだろう。

モスク - 1.jpeg

よくバスで通りかかる、リージェンツ・パーク近くのロンドン・セントラル・モスク(バスの中から撮った写真)。ここでもラマダン中には毎晩イフタールが開かれていて、誰でも参加できるようだ。モスクのサイトにはよく「コミュニティーの人との絆を深める」と書いてあるのだけど、わたしはそれほど近くない。もっと近くにモスクがあるかどうか、調べてみようかな。筆者撮影。

 残念ながら、キリスト教と違う価値観を持つイスラム教徒への誤解や偏見はまだ残る。それでもラマダンをきっかけに、わかり合おうとする人たちがいることは心強い。今回お伝えした活動はほんの一部だ。

 先月、スコットランド自治政府の首席大臣(首相)には、イスラム系として初めて37歳のハムザ・ユーサフ氏が就任した。プレミア・リーグでは、ラマダン中の試合は日没に一時中断して、断食している選手に水分と栄養を補給させるというクラブが増えてきた。希望はあると思いたい。

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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