コラム

ハリウッドの白人偏重「ホワイトウォッシング」は変えられるか?

2017年11月09日(木)11時30分

ホワイトウォッシングの例として非常に有名なのが、この時代に作られた『ティファニーで朝食を』だ。1961年公開のこの映画には、コメディ的キャラクターとして日本人の家主Yunioshiが登場する。

細い目、近眼、出っ歯、風呂に入っているなど、日本人をよく知らない白人が想像し、笑いものにするステレオタイプだ。しかも、演じているのはミッキー・ルーニーという白人だった。

現在では最も侮辱的なホワイトウォッシングの例として知られているのが、当時の観客はルーニーの演技に大笑いし、ニューヨークタイムズ紙の映画評論ですら「おおむねエキゾチック(broadly exotic)」と好意的だった。

この時代には、それ以外にも驚くようなホワイトウォッシングが当然のように行われていた。

1956年公開の『征服者(The Conqueror)』でジンギスカンを演じたのは、カウボーイ映画で有名なジョン・ウェインで、1965年公開の『オセロ』でムーア人(北西アフリカのイスラム教徒)を演じたのは青い瞳が印象的なローレンス・オリヴィエだった。

これら2つの例のように、白人の俳優がアジア人に見えるようメイクするのは「イエローフェイス(yellowface)」、白人俳優が黒人を演じるときに肌を黒く塗るのは「ブラックフェイス(blackface)」と呼ばれ、ハリウッドではあたりまえのようになっていた。

社会的な認識が欠けていた時代のこととはいえ、今これらの映像を見ると滑稽で吹き出してしまう。

ところが、この侮辱的で滑稽なイエローフェイスやブラックフェイス、そしてホワイトウォッシングは21世紀の今でも続いているのだ。

2014年公開の『エクソダス:神と王(Exodus: Gods and Kings)』は、旧約聖書の出エジプト記を元にしたものだ。この映画でのモーゼがウェールズ出身のクリスチャン・ベールで、ラムセスがオーストラリア出身のジョエル・エジャートンだというのは、ジョン・ウェインのジンギスカンやローレンス・オリヴィエのオセロと同レベルだ。

半世紀以上経ってもハリウッドの態度がそう変わっていないことに、いまさら唖然とする。

変わったのはハリウッドではなく、ホワイトウォッシングを批判し、ボイコットしはじめた観客のほうだろう。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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