最新記事
中国

強制中絶を称賛...なぜ「一人っ子政策」主導者は裁かれなかったのか? 中国政治の「致命的欠陥」とは

FINAL ANALYSIS OF THE ONE-CHILD POLICY

2026年1月18日(日)19時00分
易富賢 (イー・フーシェン、米ウィスコンシン大学の人口統計学者)
彭珮雲は一人っ子政策を主導した(写真は2013年) REUTERS

彭珮雲は一人っ子政策を主導した(写真は2013年) REUTERS

<中国が一人っ子政策を廃止して10年。だが、その「終わったはずの政策」は、人口減少という形でいまも中国社会をむしばんでいる。女性を拘束し中絶を強要──そんな暴力的な産児制限を称賛・推奨した彭珮雲(ポン・ペイユン)は、責任を問われることなく死去した。なぜこの巨大な失政は止まらず、誰も裁かれなかったのか>


▼目次
少子化を覆い隠す数値の改ざん

中国が一人っ子政策を廃止してから今年の1月1日で10年になる。そのわずか10日前の昨年12月21日、極めて強圧的な中国の産児制限政策の推進を担った彭珮雲(ポン・ペイユン)が、95歳で死去した。彭が自らの政策について一度たりとも責任を問われることはなかった。

1979年に最初に一人っ子政策を提案したのは後の副首相の陳慕華(チェン・ムーホア)だった。人口急増による食糧不足を回避する手段だと訴え、共産党有力指導者の陳雲(チェン・ユン)と鄧小平の支持を得た。翌年、ミサイル開発者の宋健(ソン・チェン)と人口経済学者の田雪原(ティエン・シュエユアン)が将来人口を予測し、「2080年に中国の人口は42億6000万人に達する」との警告を発表すると、一人っ子政策は実行に移された。

国務委員に登用されていた宋は、89年の天安門事件後、党総書記に指名された江沢民を説得し、一人っ子政策を強化。2年もすると合計特殊出生率の人口置換水準(人口を一定に保つために必要な出生数)とされる2.1を下回ったものの、一人っ子政策が終わることはなかった。それどころか、国家計画生育委員会の主任だった彭は、地方の役人は定められた政策目標を達成できないと昇進できないという「一票否決」制度を拡大、出産制限の成否とキャリアを直結させて一人っ子政策を推し進めた。

その結果、各地の当局は次第に残忍な手段を講じるようになった。山東省では91年、女性を拘束し中絶強要などを行う施策を実施。彭はこれを称賛し、他の地域も見習うよう促した。彼女が在任中の10年(88〜98年)の間に、1億1000万人の女性が子宮内避妊器具を挿入され、4100万人が不妊手術を受け、1億1000万人が中絶した。出生率は90年の2.3から2000年には1.22に低下した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国企画財政相、米投資案件を事前審査へ 法案可決前

ワールド

アングル:トランプ政権2年目、支持者が共有する希望

ビジネス

午前の日経平均は大幅続伸、史上最高値更新 政策期待

ワールド

シンガポール、今年の成長見通し上方修正 堅調な世界
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業績が良くても人気が伸びないエンタメ株の事情とは
  • 4
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中