最新記事
BOOKS

和歌山カレー事件 死刑囚の母と子どもたちの往復書簡に見た「普通の家族」

2025年9月26日(金)19時00分
印南敦史(作家、書評家)
郵便ポストに手紙を入れる

写真はイメージです pimpampix-shutterstock

<冤罪の可能性が指摘される27年前の殺人事件。林眞須美死刑囚による書き下ろし「まえがき」や新資料を加えて出版された書簡集から分かったこと>


 こんな人生になるなんて考えてもみませんでした。我が子と離れ離れの人生になることなど想像もできませんでした。(電子版特別収録 眞須美 まえがきより)

1998年7月25日に起きた和歌山カレー事件について、ある年齢以上の人には今さら説明するまでもないだろう。夏祭りで提供されたカレーにヒ素が混入され、67人が急性ヒ素中毒になり、4人が死亡した事件である。

2009年5月19日に死刑が確定した林眞須美は、一貫して無実を主張している。状況証拠しかない中での判決で冤罪の可能性が高いと指摘され、現在、再審請求中だ。今なお多くの人が検察の姿勢と判断に疑問を抱き続けている(私もそのひとりだ)。

このたび出版された『眞須美 ~死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら~』(林眞須美・著、幻冬舎)は、2006年刊行の『死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら――林眞須美 家族との書簡集』(講談社)の電子書籍版。
『眞須美 ~死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら~』
夫の健治、4人の子どもとの間で交わされた書簡集である。新たに書き下ろされた自身による「まえがき」、長男による手記、新資料も収録されているため、事件の全貌がより鮮明になる一冊だ。

報道が加熱していた事件発生当時、群がる報道陣に向かってホースで水を撒いた光景が必要以上にセンセーショナルに強調されたせいもあり、本書の著者である林眞須美死刑囚は「毒婦」などと形容されることが多かった(ひどい表現だ)。

だが、彼女が必ずしもそんな人間ではないことは本書の端々からも読み取ることができる。それに、ここで展開されている会話は、どれも普通の家族間で交わされているものとなんら変わりがない。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席と首脳会談

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中