最新記事
ウクライナ戦争

「逃げられるうちに逃げろ...」騙されてロシア軍に入隊したインド人、仲間からの「悲痛なメッセージ」の意味とは?

ESCAPING THE RUSSIAN ARMY

2025年4月3日(木)17時25分
ジェームズ・ビアズワース(ジャーナリスト)

そこからリャザン市の軍事訓練施設に移送された。リャザンはモスクワの南東約200キロにある基地の町で、精鋭空挺部隊の拠点だ。サルファラーズらは携帯電話とパスポートを没収され、軍服と厚底の革のブーツを支給されて、24時間軍服で過ごすよう言い渡された。

軍事訓練施設ではパンとジャムの軽食をつまみ、トイレ掃除や雪かきといった仕事に従事した。それでも近くで戦闘が行われていることは、片時も忘れられなかった。


毎日、巨大な緑色の軍用トラックがゲートから入ってきた。「指や腕のない兵士を運んできた。足首がない兵士もいた。ある兵士は頭を撃たれたようだった」と、サルファラーズは言う。

だが前線から戻ったあるロシア兵と言葉を交わすまで、自分がどんな契約に署名してしまったのか、彼らは理解していなかった。兵士はつたない英語で、ロシア軍を支援してくれてありがとうと礼を言った。

「だから、ここに来たのはロシア軍支援のためではなく施設で働くためだとみんなで説明した」と、サルファラーズは言う。「すると、ここに戦闘以外の仕事はないと言われた」

数日後、ターヒルがこっそり持ち込んだスマホにボイスメッセージが届くと、焦りは頂点に達した。メッセージを入れたのは、チェンナイで会ったサミール・アフメドとマングキヤだった。

「だまされてウクライナに連れてこられた」と2人は話し、「逃げられるうちに逃げろ」とせき立てた。

続く1週間、サルファラーズらは除隊させてほしいとブローカーと大使館に必死で訴えた。しかし1月17日に将校が来て、翌日3人を国境付近に派遣すると告げた。軍事訓練は一度も受けていなかったと、3人は証言する。

サルファラーズは脱走を決意した。「誰も一緒に来たがらなかったから、1人で逃げることにした」

※後編はこちら:大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍から脱走したインド人を待っていた「人間性のかけらもない世界」

From thediplomat.com

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手

ワールド

米国務長官、独政党AfD「過激派」指定を非難 方針
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中