最新記事
チベット

ダライ・ラマが89歳に...チベットに迫る「後継者問題」

2024年7月12日(金)17時14分
ダライ・ラマとペロシ元米下院議長

雪を被った山々に囲まれたインド北部の僧院で、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の保護と信者への予言をつかさどる高僧が、不安を募らせていた。写真は6月に面会し、あいさつを交わすダライ・ラマとペロシ元米下院議長。提供写真(2024年 ロイター/Tenzin Choejor/Office of His Holiness the Dalai Lama)

雪を被った山々に囲まれたインド北部の僧院で、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の保護と信者への予言をつかさどる高僧が、不安を募らせていた。

ダライ・ラマは、13日で89歳を迎える。中国は後継者を選ぶと主張しており、ネチュンと呼ばれるこの神託官は、次に何が起こるのかと考えを巡らせている。


 

「聖下はダライ・ラマ14世だ。今後も15、16、17世と続いていくはずだ」とこの高僧は言う。

「多くの国では指導者が変われば、その話はもう終わりだ。だが、チベットでは異なる」

チベット仏教ではダライ・ラマら学僧は死後、新生児に生まれ変わると信じられている。現在ダライ・ラマは米国で病気治療中で、自身の90歳の誕生日頃に、死後に転生するかどうか、場所はどこかなどを含め後継者ついて明らかにするとしている。高僧らが予言を得る段階を経て「化身」が認定される。

ダライ・ラマは仏教を国際的に広め、亡命を続けながらチベット人の大義のために闘った功績から1989年にノーベル平和賞を受賞したカリスマ的存在だ。中国政府はダライ・ラマを「危険な分裂主義者」とみなしている。一方のダライ・ラマは、中国国内における自治と宗教的自由を得る「中道」を求めている。

後継者は誰であれ、国際的な場での経験が浅く認知度の低い人物となる。亡命政府「中央チベット政権(CTA)」を長年超党派で支援してきた米国政府と中国の間で緊張が高まる中、解放運動が弱体化したり、反対に過激さを増しかねないという懸念も噴出している。亡命政府や欧米の支援国、そしてヒマラヤ山脈の麓の丘陵地帯が60年以上にわたりダライ・ラマの亡命先となっているインドは、影響力の強い同氏が亡くなった場合の将来に備え始めている。

バイデン米大統領は近く、1951年に中国に併合されたチベットについて「古くから中国の一部」だとする中国側の「偽情報」に反対するよう国務省へ求める法案に署名する予定だ。

「中国は、チベットが歴史上ずっと同国の一部であるという認知を求めている。この法案があれば、チベット支持者らは、このような拡大された主張を退けるよう西側政府に働きかけることが比較的容易になるだろう」とロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のチベット専門家、ロバート・バーネット氏は言う。

ペロシ元下院議長ら米議員団は6月、ダライ・ラマと面会し、米議会での同法案可決を祝った。亡命政府のペンパ・ツェリン首相も「好機」だと評価した。

同法案についてツェリン首相はロイターの取材に対し、強制的同化など中国による権利侵害を強調するという手法からの戦略的転換であると指摘。亡命政府は2021年以降、米国を含む数十カ国に対し、チベットは常に自国の一部であったとする中国政府の主張を公の場で否定するよう働きかけていると述べた。

こうした戦略に米国という後ろ盾を得た亡命政府は、中国が交渉のテーブルに着くことを望んでいるとツェリン首相は言う。

「もし全ての国がチベットは中華人民共和国の一部であると言い続けるならば、我々と話をする理由が中国にあるだろうか」

中国外務省はロイターの質問に対し、ダライ・ラマが「祖国を分裂させる立場を確実に放棄し」、チベットが中国の不可分な領土であると認めた場合には、同氏の「個人的な未来」に関する話し合いに応じる可能性があると述べた。

中国政府はダライ・ラマ側との公式での話し合いを2010年以降設けておらず、バイデン氏に対しても法案に署名しないよう警告している。ダライ・ラマ事務所は取材要請に対し、ツェリン首相に行うよう返答。同事務所は近年、ダライ・ラマの女性や子どもに関する言動を巡って謝罪を表明している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 7
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 8
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中