最新記事
テクノロジー

「技術の正しい使い方」 ホームレス化のリスクが高い住民を、AIがいち早く「発見」し救い出す 米試験導入

2024年4月20日(土)09時35分
ロイター

<正しい使い方>

米住宅都市開発省によると、2023年に全米でホームレスを経験した人は65万3000人余りと前年比で12%増加した。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のカリフォルニア政策研究所でエグゼクティブディレクターを務めるジャニー・ラウントリー氏は、最近の調査から一回だけの現金支給やその他の支援措置だけで、ホームレス拡大の流れを止められることが分かっていると強調する。

昨年ノートルダム大学が公表した調査では、カリフォルニア州のサンタクララ郡でホームレス危機にさらされていた人の81%は、半年にわたる金融支援プログラムを適用されているうちにそうなる確率が低下した。

ラウントリー氏は「(困窮)世帯を適切なタイミングで把握し、債務や家賃の支払い援助のために2000─6000ドルを支給すれば、住宅を安定的に維持する態勢に戻すことが可能だ」と述べた。

同氏はロサンゼルス郡の実験につながる調査研究を主導し、この実験の評価作業にも関与している。

ただ、当局はまず援助が必要な世帯を見つけ出さなければならず、その分野で試験的に導入されたのがAIだった。こうした世帯が判明すれば、郡のホームレス予防部門からジョセリン・バタス氏のような専門のマネジャーが派遣される。

バタス氏の話によると、突然、対象世帯に電話をかけて自己紹介しても最初は疑いを持たれる場合があり、詐欺ではないと納得してもらった上で、まずは個々の住宅費用や公共料金などの状況を知り、適格者には数日以内に金銭的な支援や融資、就職、保険加入なども世話もする。さらに精神的な支援も提供するという。

専門家の一人は「これは従来なら接点を持てなかった危機的な世帯と確実につながるための正しい技術の使い方だ」と述べた。

<支援の効率化>

ハーバード大学のスティーブン・ゴールドスミス教授(都市政策)も、AIは人間が作業するよりも最も支援が必要な世帯を効率的に発見してくれると説明。「(ホームレスの)予防は複雑なので、AIが個々のニーズに応じて必要なサービスに焦点を当てることで、各都市はより効率的に動ける」と付け加えた。

新型コロナウイルスのパンデミック期間にホームレスの数が倍増したカナダのオンタリオ州ロンドン市でも、AIが活用されつつある。同市幹部のクレイグ・クーパー氏は、既に一時宿泊施設に入っている人々のデータを分析して一番危機的な人を探り当てるためにAIが使われ、今のところ精度は非常に高いようだとの見方を示した。

ロサンゼルス郡のサンチェスさんは、支援プログラム期間を終えて数カ月で元通りの生活に戻ることができて感謝している。健康面の問題も解消し、6月に高卒資格を得て子どもも生まれる。

同郡のAIによる実験で「多大な援助を得られ、今はこの場所がより安全だと感じられる」という。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中