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「歴代首相に盆暮れに1000万円ずつ献金」「地域振興で潤うのは一世代だけ」原発にまつわる話

2024年3月28日(木)12時45分
印南敦史(作家、書評家)


地元紙「河北新報」の2020年3月の世論調査では、再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」は計61.5%だったが、原発が建つ立地自治体の女川町議会、石巻市議会ともに再稼働を求める陳情を保守系議員らの賛成多数で採択した。同年9月24日の石巻市議会では木村忠良議員が、「原発に関する交付金が市民の福祉向上に寄与してきた」と賛成の立場から述べている(同年9月25日付「読売新聞」より)。(112ページより)

その結果、宮城県議会も再稼働に賛成する請願を自民党系会派などの賛成多数で採択したという。

「原発に関する交付金が市民の福祉向上に寄与してきた」との主張には、地元を納得させるだけの説得力があるだろう。事実、役場や学校、運動場が造られたりもしたようだ。とはいえ、ここには大きな問題が絡んでくる。

新たな施設ができるのはいいとしても、立地自治体はそれらの維持費が捻出できずに苦しむことになるというのだ。そのことについては、元福島県知事の佐藤栄佐久氏の言葉が分かりやすいだろう。


「原発の地域振興で潤うのはたった一世代だけ。40年たてば固定資産税もなくなって、その自治体の財政状況は悪化の一途をたどり、最後は町長の給料すら払えなくなって、大量の使用済み核燃料だけが残る」(「アエラ」2013年2月4日号より)(113ページより)

福島県大熊町と双葉町にまたがった福島第一原発もそうだったようだ。双葉町は電源三法による交付金の交付が終わったことなどから財政が悪化しているというのだ。

もちろんこれは、原発にまつわる話のごく一部に過ぎない。しかしそれでも、原発(と原発にまつわるさまざまな事例)がいかに不安定なものであるかが分かるのではないだろうか。

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なぜ日本は原発を止められないのか?
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

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