最新記事
東南アジア

マレーシアのイブラヒム新国王は、政治にもビジネスにも「野心的」...政策にどれだけ影響するか?

The Billionaire King

2024年2月28日(水)18時17分
プレム・シン・ギル(インドネシア・ムハマディア大学客員研究員)
マレーシアでイブラヒムが国王に即位

国王に即位したイブラヒムには経済特区創設を後押しした実業家の顔も HASNOOR HUSSAINーPOOLーREUTERS

<私兵を持つ大富豪で、ビジネスに積極関与する実業家。イブラヒム新国王はマレーシア君主制の「象徴的役割」を変えるのか>

立憲君主制の下、輪番制で国王を選出する世界で唯一の国、マレーシアで1月31日にイブラヒム新国王が即位した。

この政治的に重要な出来事は、特に富と権力の融合をめぐって、好奇心と懸念の双方を引き起こしている。南部ジョホール州のスルタン(イスラム王侯)である65歳の新国王は国内有数の富豪である一方、率直な政治的発言を行い、政治家批判を繰り広げてきた。

マレーシア国王は従来、限定的な権限を持つ儀礼的役割と見なされてきたが、近年は変化が起きている。2019年に即位したアブドゥラ前国王は5年間の任期中、政局に大きな影響力を行使した。

実業家でもあるイブラヒムは不動産や採鉱業、中国の不動産開発大手が手がけたジョホール州の人工島プロジェクト「フォレストシティー」に出資してきた。私兵も保持していることが、イスラム教徒が多数派の国で、イスラム教の擁護者とされる国王の象徴的役割に複雑な影を落とす。

政治・経済政策に積極的に関与する姿勢

多くの先任の国王と異なり、イブラヒムは政治について積極的に発言し、アンワル・イブラヒム首相とも親しい。マレーシアとシンガポールは今年1月、ジョホール州にまたがる国境部で経済特区を共同開発する覚書に調印した。この経済特区創設を主張していたのが、イブラヒムだ。

政治・経済政策決定に積極的に関与する姿勢は、その経済的利害関係と相まって、イブラヒムの影響力の規模や性質に疑問を投げかけている。

つまり、懸念の核にあるのは、本人の経済的利益と国王としての責任のバランスだ。手詰まり状態のフォレストシティーをはじめ、イブラヒムの事業の複雑さは、大規模経済開発への国王の関与、および地域社会や環境への潜在的影響に視線を集めている。

さらに、イブラヒムは政治の安定化に貢献したいと表明している。18年以降、首相が4度交代したマレーシアは異例の流動状態に揺れてきた。

同国憲法は国王の権限を明確に定め、首相や内閣の助言に従うことを求めるが、近年は国王の介入の度合いが増している。22年の総選挙後の政治危機では、アブドゥラがアンワルの首相任命に積極的に動き、組閣交渉に関与した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、潜水艦発射型ICBM「ブラバ」本格配備へ

ワールド

豪政府、再生エネ・重要鉱物供給の強化に150億ドル

ビジネス

スイスアジア運営のファンド、取締役の個別面談義務化

ワールド

TikTok禁止法、クリエイターが差し止め求め提訴
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中