最新記事
中東

「人質斬首」イスラム国はまだ終わっていない

The Never-Ending Story

2024年2月8日(木)16時38分
伊藤めぐみ(ジャーナリスト)
IS

シリア北東部のアルホル難民キャンプから解放された親子(2023年9月) AFPー時事

<報じられなくなった過激な暴力組織ISだが、元戦闘員は社会から拒絶され、組織は復活を狙っている>

今から10年前の2014年、過激派組織「イスラム国」(IS)の暴力が世界各地を震撼させていた。

メディアにはISの映像があふれていた。最高指導者のアブ・バクル・アル・バグダディがイラクのモスクでカリフ制国家(カリフはイスラム共同体の指導者)の樹立を宣言した映像を記憶している人もいるだろう。

また、黒い衣装を着て長いひげを伸ばした戦闘員たちが行進し、改造した車で自爆攻撃を行い、人質を斬首しようとする映像が印象に残っているかもしれない。ISは一時、最大でイラク・シリアの領土の3分の1まで支配した。

現在ではISについて報じられることはほとんどなくなったが、戦闘員たちはどこへ行き、ISは今、どうなっているのか。

■刑務所は囚人が過激化しやすい

昨年10月、イラクの首都バグダッドは車があふれ、真新しいショッピングモールも建設されて活気に満ちていた。街中で自爆攻撃が多発していた時期もあったが、現在は落ち着きを取り戻している。

しかし、まさにこの首都にある刑務所に、数万人のISメンバーが服役・収容されているのだ。法務省の広報官・更生施設担当のカマル・アミン・ハーシムは言う。

「ISのメンバーは、バグダッドや南部ナシリヤなどの刑務所に約3万人収容されている。刑務所の定員の2倍から3倍がいて、過密状態だ」

17年、イラク軍と米軍を中心とした有志連合軍による掃討作戦で、イラクのISはほぼ壊滅状態になった。戦闘員だけでかつては3万人いたとされ、それ以外の協力者や関係者はさらに多い。

ISのメンバーは拘束され、ハーシムによると9500人に死刑判決が下された。死刑が既に執行されたケースもあるが、懲役を科されたり、今も裁判なしで拘束されている者もいる。

イラクは刑務所に関して苦い経験をしている。03年のイラク戦争以降の混乱期に、刑務所内で囚人の過激化が起きたからだ。後にISの最高指導者となるバグダディも03年のイラク戦争をきっかけに反米闘争に加わり、収監された刑務所で他の囚人から影響を受けて、そこで初めて過激なイスラム思想に染まったとする説がある。刑務所が過激派の養成施設のようになっていたのだ。

過去の教訓から、イラク法務省は刑務所内で過激化を防止するためのプログラムを実施している。しかし、囚人の数が膨大で、対応は簡単ではない。イラク政府は新たな刑務所を建設中で、過密問題は1、2年後には緩和される予定であるというが......。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

橋崩落の米ボルティモア港、水路が完全復旧 がれき撤

ワールド

ブラジル「空飛ぶタクシー」開発企業、来月改めて資金

ビジネス

エリオット、サウスウエスト航空の経営陣交代を要求

ビジネス

中国国有銀がドル売り、約7カ月ぶりの元安水準受け=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 2

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっかり」でウクライナのドローン突撃を許し大爆発する映像

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「私の心の王」...ヨルダン・ラーニア王妃が最愛の夫…

  • 7

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 8

    高さ27mの断崖から身一つでダイブ 「命知らずの超人…

  • 9

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 7

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 8

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 10

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中