最新記事
ガザ情勢

世界に波及するガザ情勢、問われる国家と人間の品格

2023年12月6日(水)10時55分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学国際学部教授)

「観点」と「視点」という言葉はどちらも物事を見る立場を意味しているが、本来の意味は少し違う。その違いを分かりやすく言うと、観点は「考え方」であり、視点は「見方」である。

中東アラブ地域、ひいてはパレスチナ情勢を報じる日本のメディアが使用するさまざまな言葉には、「視点的要素」よりも「観点的要素」の方がはるかに大きい。この問題の扱いに関する日本のメディア人には、品格を問う意識があるのだろうか。

 

ハマスによるイスラエル攻撃をめぐり、欧米政府が中心となってイスラエルへの強い支持と同情を表明した一方、その後のガザ地区への無慈悲な報復は欧米諸国を含む世界中の人々の怒りを呼んでいる。結果として、今や圧倒的にパレスチナ支持の勢いのほうが強く、連帯を叫ぶ声は大きくなるばかりだ。その原動力となるのは、人間としての品格だと言えよう。

いま私たちが目の当たりにしているのは、国家と市民の品格がぶつかり合う光景だ。日本でも政府による公式対応と国民の受け止め方との間にギャップが広がりつつある。

信憑性に欠けるイスラエルの主張

パレスチナ情勢への視点や関わり方で品格が問われる場面は他にも多くある。その一つが、ガザ地区北部にあるアルシファ病院へのイスラエルの空爆とその理由である。

アルシファ病院内にハマスの軍事拠点が存在することについて、イスラエル側の説明が矛盾している。イスラエル軍はアルシファ病院への突入後、院内を説明するヨナタン・コンリクス報道官の動画を削除し、新たに編集された動画を公開した。これを受けて、病院内にハマスの拠点が存在するというイスラエル側の主張の信憑性について疑問が生じている。

イスラエル軍にとって、アルシファ病院に突入することはすなわち、カッサム旅団(ハマスの軍事部門)の指揮統制センターに到達することを意味するようだった。イスラエル軍の報道官は病院内部の地図を見せながら、ハマスの軍事拠点の存在を証明していると懸命に説明していた。

ところが、イスラエルは1980年代にアルシファ病院を改修したとき、そこに地下室を建設していたことが判明した。そのため、そもそもイスラエルは最初からアルシファ病院で重大なことを発見する必要はなかった。イスラエルの技術者によって作成された設計図さえあれば、地下のトンネルを軍事施設の重大な発見かのように見せかけるのに十分だったのである。

軍報道官は先月15日、BBCと米FOXニュースの記者に同行を許可して病院内部を案内した。BBCのルーシー・ウィリアムソン記者はリポートで、「イスラエル軍は取材班の移動する場所と時間を制限していて、病院の医療スタッフや患者に話を聞くことができなかった」としている。

イスラエルは世界の大手ニュースメディアに病院取材を許可したが、結果的には倫理と品格の低さを世界に向けて露呈させることとなった。これも国家の品格と人間の品格がぶつかり合うのを目の当たりにした瞬間だった。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「極超音速ミサイル搭載艇」を撃沈...当局が動画を公開

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 5

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 6

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中