最新記事

ウクライナ戦争

モスクワを攻撃されても事を荒立てたがらないプーチンの秘密とは?

Why Putin is Downplaying Moscow Drone Strikes

2023年6月1日(木)19時07分
デービッド・ブレナン

プーチンはまた「長引く戦争に世論の支持をつなぎ止め、西側を悪の権化に仕立てようとする、クレムリンのお決まりの主張の数々を繰り返した」と、ISWは指摘する。さらに、「モスクワの防空システムは『正常に機能している』が、『改善を検討』する余地はあるとも述べた。首都及びウクライナとの国境付近における防衛システムの不備を、国内の極右に突かれないよう、先手を打ったのだろうと、ISWの報告書は指摘している。

プーチンはさらに、ウクライナはザポリージャ原子力発電所の安全管理を脅かし、「汚い爆弾」を使っているというお決まりのプロパガンダも繰り返した。これは、ロシア軍の失態が明らかになるたびに、クレムリンが持ち出すデフォルトの偽情報だと、ISWは述べている。

ロシアのタカ派の軍事ブロガーたちは、今回のドローン攻撃に対するクレムリンの対応に批判的だ。ロシア連邦保安庁の元大佐で、2014年に起きたロシアのクリミア併合と親ロシア派によるウクライナ東部の一部の実効支配で重要な役割を果たしたイーゴリ・ギルキンは、いまだにウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と言い張り、本格的な戦争であることを認めようとしないプーチンとクレムリンの腰抜けぶりをあざ笑っている。

ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジンとチェチェン共和国の独裁者でプーチンの子飼いと言われるラムザン・カディロフはいずれも、ロシアが勝利するには新たな動員で総攻撃をかける必要があるとみていて、ロシア領内へのドローン攻撃に対しては徹底的な報復攻撃を行うべきだと主張している。

国民の危機感を煽る工作か

プリゴジンは祖国を本気で守ろうともせず、「おとなしく座視している」ロシアの指導層に怒りをぶちまけ、カディロフはウクライナ軍に高性能兵器を供与している西側諸国を痛い目に遭わせる必要があるなどと息巻いた。

一方、ウクライナの大統領顧問ミハイロ・ポドリャクは、今回のドローン攻撃には「快哉を叫びたい気分」だと言い、今後も同様の攻撃が起きるだろうとも述べたが、ウクライナ軍は関与していないと断言した。ウクライナ側はこれまでもロシア領内への攻撃については一貫して関与を否定している。

ウクライナ議会の外交委員会委員長を務めるオレクサンドル・メレシュコ議員は、本誌の取材に対し、「戦争の霧」が視界を閉ざしているため、今回のドローン攻撃の真相は見えにくいと語った。

「何が起きたかはっきりしない」と、メレシュコは認めた。使用されたドローンはさほど高性能ではないようだから、「何らかの目的でロシア国内の反体制派が行った」可能性もあるという。

もう一つの可能性としては、「ロシアの次期大統領選まで1年を切った今、国民の危機感を煽り(プーチン支持の世論を固めるために)、ロシアの情報機関が仕掛けた工作とも考えられる」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、中国合弁工場で900人削減 EV急拡大で主

ワールド

米下院、詐欺で起訴の共和サントス議員を除名 史上6

ワールド

米連邦地裁、トランプ氏の免責主張認めず 20年大統

ビジネス

米EV税優遇策、中国産材料を制限へ 24年から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
2023年12月 5日号(11/28発売)

インフレが迫り、貯蓄だけでもう資産は守れない。「投資新時代」のサバイバル術

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 2

    バミューダトライアングルに「興味あったわけじゃない」が、予想外の大発見をしてしまった男の手記

  • 3

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 4

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 5

    世界でもヒット、話題の『アイドル』をYOASOBIが語る

  • 6

    「ダイアナ妃ファッション」をコピーするように言わ…

  • 7

    ロシア兵に狙われた味方兵士を救った、ウクライナ「…

  • 8

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 9

    「赤ちゃんの首が...」パリス・ヒルトン、息子を「抱…

  • 10

    土星の環が消失?「天体の不思議」土星の素敵な環を…

  • 1

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 2

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 3

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深い意味

  • 4

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 5

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 6

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中…

  • 7

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 8

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャ…

  • 9

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 10

    1日平均1万3000人? 中国北部で「子供の肺炎」急増の…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される

  • 4

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイ…

  • 5

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 6

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 7

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 8

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 9

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

  • 10

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中