最新記事
子育て

女性の収入面の「子育て罰」が特に大きい日本社会

2023年5月10日(水)11時00分
舞田敏彦(教育社会学者)
子育て期の女性

日本では家事や育児の負担が女性に著しく偏っている ake1150sb/iStock.

<女性就業者の年収中央値は、結婚・出産によって3分の2に目減りする>

最近、「子育て罰」という言葉を聞くようになった。子どもができると育児の労力がかかり、教育費もかさむ。それはいつの時代もそうだが、今の日本では「罰(penalty)」と形容されるまでに、負担や損失が大きなものとなっている。

核家族化の進行により、同居の親からサポートを得る人は少なくなっている。また20歳過ぎまで学校教育を受けさせるのが常態化しており、教育費も高騰している。それを補うべく、公的な保育施設の拡充や大学等の学費減免が実施されているものの、まだまだ不十分なのが実情だ。

さらに女性の場合、出産・育児のために職を辞すことによる「逸失所得」も出てくる。ISSP(国際社会調査プログラム)が2019年に実施した意識調査の個票より、日本の女性有業者(25~54歳)の年収中央値を算出すると、未婚者が309万円で、既婚の子ありの者が207万円。大雑把に言うと、結婚・出産によって稼ぎが3分の2に目減りする。時短や家計補助のパート就労が多くなるためだ。

他国も同じではないかと思われるかもしれないが、そうではない。主要国について、女性有業者を未婚者と既婚者(子あり)に分けて、年収ないしは月収の中央値を計算すると<表1>のようになる。

data230510-chart0102.png

結婚・出産で収入が減る国もあれば、その逆の国もある。数で見るとちょうど半々で、日本では33%収入が減るが、北欧のスウェーデンでは24%増えるという結果だ。「子育て罰」を科される国がある一方で、「子育てボーナス」がもらえる国もあるようだ。

家事や育児の負担という点でも、日本の女性には「罰」と言い得るほどの負担がのしかかる。30代前半の女性有業者で見ると、未婚者の仕事の平均時間(1日)は337分、家事・育児・介護は34分。有配偶者では順に246分、280分(総務省『社会生活基本調査』2021年)。合算は前者が371分、後者が526分で、既婚者になると負担が大きくなる。ゆえにフルタイム就業が困難になり、<表1>のような現実となる。

20~30代の未婚女性に結婚をためらう理由を問うと、「仕事・家事・育児・介護を背負うことになるから」という回答が38.6%で、男性(23.3%)との差が大きい(内閣府『人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査』2021年)。女性の高学歴化が進み、フルタイム就業希望率も高まっている現在では、こうした「罰」は、昔にくらべてより強く意識されるようになっている。

「子育て罰」を「子育てボーナス」に変えようと、育児手当の増額などが検討されているが、そういう金銭面の支援だけでは足りない。個々の家庭において、家事や育児の負担が女性(母親)に著しく偏っている状況を是正しなければならない。少子化問題は、時代錯誤な性役割分業を続けている「ジェンダー」の問題とも捉える必要がある。

<資料:「ISSP 2019 - Social Inequality V」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    男の子たちが「危ない遊び」を...シャワー中に外から…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中