最新記事
ロシア

プーチン「専用列車」の写真を撮影・投稿してしまったロシア「鉄道オタク」の悲劇

2023年3月18日(土)13時41分
ダニエル・オング
電車に乗るプーチン大統領

モスクワ中央径線(MCD)開通式典に出席したプーチン(2019年11月) Sputnik/Alexei Druzhinin/Kremlin via REUTERS

<ある時から自身のYouTubeページに、私的な電話の通話内容が一語一語書き起こされたコメントが付くようになった>

鉄道が好きな人にとっては、珍しい車両について詳しく知りたくなったり、写真を撮りたくなったりするのは自然なことだろう。だが、ロシアのある「鉄道オタク」の男性は、そんな好奇心に駆られたことが原因で命の危険を感じるようになり、最終的には国外に逃亡せざるを得なくなった。彼が追い求めた車両は、ウラジーミル・プーチン大統領専用の装甲列車だった。

■【動画】愛人と暮らす「黄金の別荘」への移動にも使用するプーチン専用の「装甲列車」

この男性は何年にもわたってプーチンの装甲列車を追跡し、写真を撮影していたが、そのせいでロシアの情報機関である連邦保安局(FSB)に執拗に追い回されるようになり、現在はロシアを離れて亡命生活を送っているという。

鉄道オタクのミハイル・コロトコフ(31)は、2011年に開設した自身のブログ「鉄道ライフ」にプーチンの専用列車の写真を投稿し、その特徴について書いていた。2018年に、プーチンの秘密列車の画像をインターネット上に初めて投稿した鉄道オタクがコロトコフだ。

モスクワ郊外にある町で暮らすコロトコフは、米ワシントン・ポスト紙に対して、「趣味にすっかりハマっていた。とにかく珍しい鉄道の写真を撮りたいという思いで頭がいっぱいで、それがどんな結果を招くのかは考えていなかった」と語った。

だがその後、彼は自分の身に危険が迫っていると感じるようになった。2021年5月、彼が友人と電話をした際の私的な会話を一語一語書き起こした文章が、自分のYouTubeページのコメント欄に投稿されるようになったためだ。

「自分の身の安全が心配になった。その瞬間、自分がこれまでにインターネットに投稿してきたもの全てが、自分にとって不利な材料として使われる可能性があると気づいた」と彼は述べ、自分はFSBに監視されていると確信しているとも語った。「両親に、自分の命が危険にさらされていると話した」

政府は列車の外観が分かる画像を公表していない

コロトコフは、ロシアが2022年2月にウクライナへの軍事侵攻を開始した1カ月後に、ブログを閉鎖。インターネット上に投稿した鉄道の写真を理由に、テロの罪に問われて刑務所に収監される可能性を恐れてのことだった。そしてプーチンが9月に部分動員令を発令した後に、スリランカへと逃れた。

プーチン専用の装甲列車の存在自体は秘密という訳ではないが、ロシア政府はこの列車の写真をあまり公開していない。2012年には、プーチンが専用列車に乗っている様子が撮影されたものの、これは古いモデルの専用列車の写真だった。ロシア政府は、現在のプーチン専用列車の外観が分かる画像を一切公表していない。

それでも、ロシア政府と関わりのある人物の犯罪行為について調査を行っているドシェセンター(拠点はロンドン)は2月に、プーチン専用の装甲列車の写真を含む動画をYouTubeに投稿した。それによれば、列車にはプーチンが使う寝室と仕事部屋のほかに、随行員のための車両や特殊な通信機器を備えた車両などがあるということだ。

このプーチン専用装甲列車の値段は10億ルーブル(約1300万ドル)と推定されている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

カナダ製造業PMI、6月は5年ぶり低水準 米関税で

ワールド

米国は医薬品関税解決に前向き=アイルランド貿易相

ビジネス

財新・中国サービス部門PMI、6月は50.6 9カ

ワールド

気候変動対策と女性の地位向上に注力を、開発銀行トッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中