最新記事
シリア

シリア北西部への支援を難しくするアル=カーイダの存在......トルコ・シリア地震発生から3週間

2023年3月6日(月)14時40分
青山弘之(東京外国語大学教授)

記者会見を行うジャウラーニー(Amjaad、2023年2月9日)

<シリア北西部への支援は急務だ。あらゆる手段と経路を通じて支援の手を差し伸べなければならない。だが、テロリストが存在を強めれば、それは支援の機運を損ねることにつながる......>

2月6日にトルコとシリアを巨大地震が襲ってから3週間が過ぎた。

米国をはじめとする一部の国を除いて、多くの国、そして国際機関がシリア政府を介して、被災者に支援の手を差し伸べ、食糧、医薬品・医療機器、テント、毛布などの救援物資を空路、陸路、そして海路で届けている。そのなかでは、西側諸国のなかで真っ先に支援を決定した日本も含まれている。

支援の遅れが指摘されるシリア北西

こうしたなか、シリア政府の支配が及ばないシリア北西部への支援の遅れが指摘されている。

aoyama0306bb.jpg

シリア北西部の勢力図(筆者作成)

国連機関は、地震発生から3日が経った2月9日にようやくトルコ経由での支援を再開し、サウジアラビアとカタールからの物資の供与も14日に始められた。これらの物資は、国連安保理第2642号(2022年12月23日)が認める越境(クロスボーダー)支援の経路であるバーブ・ハワー国境通行所(イドリブ県)に加えて、シリア政府が2月13日に通行を許可したバーブ・サラーマ国境通行所とラーイー村北の通行所(いずれもアレッポ県)、そしてトルコ側が一方的に開放しているハマーム村西の通行所(アレッポ県)を通じて、シリア領内に運ばれている。

物資を搬入した車輌の数は、英国で活動する反体制組織のシリア人権監視団によると、2月25日現在、661台に達しているという。

このうち、353台が、バーブ・ハワー国境通行所を経由して、いわゆる反体制派の「解放区」に、308台が、それ以外の3カ所の通行所を経由して、トルコ占領下の「オリーブの枝」地域と呼ばれる地域に入っている。だが、物資搬入のペースは、地震発生以前に比べて減少したとの情報もある。

国連の対応の鈍さとアサド政権の存在

シリア北西部への支援の遅れについては、国連対応の鈍さが指摘される。この点について、国連のマーティン・グリフィス事務次長は2月12日にツイッターで対応の失敗を自己批判している。

また、シリア政府(バッシャール・アサド政権)の存在を強調する者もいる。シリア政府に供与される支援物資は、支配者の一族やその取り巻き(さらには政府の認可を受けて支援活動を行っているシリア・アラブ赤新月社やシリア開発信託などのNGO)が独占し、支援を必要としている人々の手には届かない、あるいは届くはずがない、というのである。

しかし、シリア政府自身は、赤十字国際委員会(ICRC)とシリア・アラブ赤新月社の監督のもと、政府の支配下にない地域を含む全土に国際社会からの支援を届けることを方針として決定した。この方針に沿って、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体である北・東シリア自治局の支配地内の被災地(アレッポ県タッル・リフアト市一帯、アレッポ市シャイフ・マクスード地区とアシュラフィーヤ地区)、そしてトルコ占領下の「平和の泉」地域(ハサカ県ラアス・アイン市)への国連の物資の輸送も始められている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、NATOへの関与に否定的発言 集団防衛

ワールド

北朝鮮が固体燃料エンジンの地上燃焼実験、金総書記が

ワールド

ウクライナ大統領がUAE・カタール訪問、防衛協力で

ワールド

全米で反トランプ集会 移民政策やイラン戦争に抗議 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 8
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中