最新記事

中国

共産革命から経済大国へ──江沢民と中国の軌跡

2022年12月7日(水)15時27分
ビクター・シー (米カリフォルニア大学サンディエゴ校准教授)
習近平と江沢民

2017年の共産党大会の閉会式で習近平総書記と話す江沢民 REUTERS/Jason Lee

<11月30日に96歳で没した元中国共産党総書記の江沢民。市場経済化を推し進め、高い経済成長を実現。中国の国際的な存在感を高めた江の生涯を振り返る>

彼には、なかなか笑える逸話がある。江沢民が2002年に76歳で中国共産党総書記の座を辞す2年前のこと、北京での記者会見で香港の若い女性記者の無邪気な質問(香港の現行政長官の続投はあり得るか)に過剰反応し、北京語に加えて英語や広東語も交え、君たち若者は「単純すぎる、ナイーブだ」などと説教を垂れた。

当時、この一件は国民に広く知れ渡り、大いに苦笑・失笑・冷笑の的となった。世間の若者は無知で老人の知恵こそ絶対に正しいと、彼の世代の指導層が固く信じていた証拠ともいえる。

しかし、実際の江沢民は頑迷なだけの男ではなかった。11月30日に96歳で没した江は、その長い人生において、中国にとって2つの大きな転換期に立ち会い、国の進むべき道を整え、国民の暮らしをおおむね向上させることに携わってきた。

まずは革命第1世代の影からの平和的な脱却を図った。古参の革命家たちは何十年も互いに粛清することを繰り返し、人民に奉仕するどころか、大きな痛みと悲しみをもたらすこともあった。

次に江は、ためらいがちながらも市場経済を受け入れた。現在の体制に比べると、まだ江の時代のほうが、中国の人々には希望があったのではないか。息の詰まるようなゼロコロナ政策で先が見えず、国内各地に抗議運動が広がっている現状を見ると、実に隔世の感がある。

鄧小平の時代も含め、歴代のどの指導者の時代よりも、江体制下では中国の世界経済への統合が進んだ。外国からの直接投資を歓迎し、WTO(世界貿易機関)への加盟を果たしたことにより、中国は経済大国への軌道に乗った。

しかし本人の生い立ちを見ると、これほどの大事をなすことを予感させるような兆しはない。1926年に生まれ、幼少期を過ごした東部の都市・江蘇省揚州は、農村から工業都市へと変貌する過渡期にあった。また政治の混乱が絶えない地域でもあった。

革命家の叔父が導き手

揚州時代の江は、高名な漢方医である祖父の地位と富のおかげで恵まれた生活をしていた。父親はエンジニアとして近代的な企業に勤務し、暮らしは安定していたようだ。

だが彼の人生に最大の影響を与えたのは叔父の江上青(江世侯)かもしれない。まだ沢民は幼かったが、叔父は共産主義の革命家として日本軍や当時の国民党政府、地域の武装勢力と闘い、運命に翻弄されていた。沢民が9歳になる前で、日本が中国本土に侵攻する前のことだが、江上青は学校の教師として共産主義の主張を広めたかどで、国民党政権によって2度にわたり投獄されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国

ビジネス

3月過去最大の資金流入、中国本土から香港・マカオ 

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」据え置き、自動車で記述追加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中