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共産革命から経済大国へ──江沢民と中国の軌跡

2022年12月7日(水)15時27分
ビクター・シー (米カリフォルニア大学サンディエゴ校准教授)

1930年代後半、日本軍が東部各地の主要都市を制圧すると、共産党は安徽・江蘇・浙江の各省で激しいゲリラ戦を展開し、国民党政権とも共闘する複雑な抗日戦の構図ができた。江上青は安徽省の新四軍(中国共産党軍)の副指令官という要職に起用されたが、私怨を抱く地主たち(「匪賊」と呼ばれた)に殺害されたとされる。

1939年に江上青が死亡した際の経緯は必ずしも明らかでないが、ともかく没後には「革命烈士」の称号を贈られた。この称号があれば、遺族は公私にわたり特別な待遇を受けられる。そして江沢民は叔父の死後にその養子となり、法的にも「革命の大義に殉じた戦士の息子」となった。

子供時代には叔父の手柄話をよく聞かされただろうが、毛沢東の言葉どおり、「革命は晩餐会ではない」という事実も幼いうちに学んでいた。だから大学時代の前半までは政治に首を突っ込まなかった。共産党に入党したのは1940年代の半ば、国民党との内戦(第2次国共内戦)が激しくなった時期とされる。

1949年に共産党が国共内戦で最終的に勝利を収めると、江沢民ら学歴のある若い党員は急に活躍の場を得られることになった。当時の党員の大多数は読み書きのできない農民兵で、台湾に逃れた国民党政権の官僚の代役を務めるには力不足だったからだ。

深刻な人材難を解消するため、党は49年以前に入党していた大卒者はもちろん、高校を出ただけの党員も昇進させる措置を講じた。名門の上海交通大学工学部を卒業していた江は、革命前から働いていた上海の食品工場で主任技師に登用された。

江のキャリアに弾みをつけたのは、無念の死を遂げた叔父との縁だった。新四軍で叔父の戦友だった汪道涵は、国内東部の全工場を統括する立場にあり、20代半ばの江を食品工場の責任者に抜擢した。この昇進は、江のその後のキャリアにおいて、江自身と、汪および新四軍派の運命を決定づけることとなった。

文革期は労働収容所に

1952年、汪は国内で自動車エンジンや通信機器などの製造部門を統括する第一機械工業部の副部長に任命された。江は汪の指示でモスクワに派遣され、自動車製造の研修を受ける。帰国後はソ連の援助で工業化を推進する政策の下、吉林省長春に設立された第一機械工業部「第一汽車製造」の幹部となった。

しかし1960年代に入ると、毛沢東は文化大革命を提起し、党と政府や社会に巣くう「不純分子」の排除に取りかかった。こうなると、江の命運も尽きたかに思われた。毛沢東は党幹部の大多数を容赦なく粛清した。第一機械工業部を含め、大半の幹部は職場を追われた。

江がいた第一機械工業部には、自ら紅衛兵に加わり、上層部に「造反有理を唱える」側に回る若手幹部もいた。だが江は、そうした動きに加わらなかった。だから紅衛兵につるし上げられ、党の「五・七幹部学校」(事実上の強制労働収容所)に「下放」され、4年間辛酸をなめた。

江は古参の幹部たちと並んで、甘んじて苦境を受け入れた。そしてその揺るぎない姿勢が、革命戦争を経験した新四軍世代から高く評価される日が来た。激動の文化大革命もやがて終わり、改革派の鄧小平らが復権を果たすと、新四軍派はその陣営に加わり、政府の要職に就いた。

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