最新記事

宇宙

「宇宙でもっとも明るい光!」ブラックホールからのジェットが輝く仕組みが明らかに

2022年12月2日(金)18時39分
松岡由紀子

活動銀河核から噴出するジェット  (ESO/M. Kornmesser)

<超大質量ブラックホールが放出するジェットが輝く仕組みが解明されつつある......>

超大質量ブラックホール(SMBH)は降着円盤(重い天体の周囲を公転しながら落下する物質によって形成される円盤状の構造)の中で渦巻く物質を飲み込み、降着円盤に対して垂直方向に高速粒子の強力なジェットを2本放出する。これらのジェットのうち、地球をまっすぐ向き、正面で観測したものを「ブレーザー」と呼ぶ。ジェットの粒子がこれほどの高エネルギーになる仕組みはまだ解明されていない。

2021年12月9日にアメリカ航空宇宙局(NASA)とイタリア宇宙機関(ASI)によって打ち上げられた「IXPE」は、X線の偏光を高感度で撮像できる世界初のX線偏光観測衛星だ。2022年3月8日から10日および26日から28日の計6日間、地球から約4億6000万光年先のヘルクレス座にある

ブレーザー「マルカリアン501」のX線偏光を観測した。一連の観測データを分析した研究論文が2022年11月23日付の学術雑誌「ネイチャー・アストロノミー」で発表されている。

ブレーザーのX線を初めて詳しく観測

宇宙からのX線は大気に吸収されるため、X線の電界配向や偏光の程度などを地上の望遠鏡で観測することはできない。これまでもブレーザーからの低エネルギー光の偏光を調べた研究はあったが、粒子を加速させる源の近くで放射されるブレーザーのX線を詳しく観測できたのは今回が初めてだ。X線の偏光測定データを他の周波数での観測から導き出されたモデルと比較することも可能となった。

研究論文によると、「マルカリアン501」のX線は約10%偏光していた。これは、これまで光学波長で観測された値に比べて約2倍大きい。しかし、偏光の方向はすべての波長で同じであり、ジェットの方向とも一致していた。

この観測データを理論モデルと比較すると、「衝撃波が『マルカリアン501』からのジェットの粒子を加速させている」というシナリオに最も近かった。衝撃波に最も近づくと、加速度が最大になってX線が発生し、ジェットに沿って外側へ向かうと、粒子はエネルギーを失って低エネルギー光を放射すると考えられている。

_labeled_1080px.jpgブレーザー「マルカリアン501」を観測する IXPE (Pablo Garcia/NASA/MSFC)

ジェットの流れに乱れが生じると、その一部が超音速になる」

衝撃波は周囲の物質の音速よりも速く動くときに発生する。ジェットの粒子を加速させた衝撃波の起源については不明だが、研究者たちは「ジェットの流れに乱れが生じると、その一部が超音速になる」との仮説を示し、その原因として、ジェット内での高エネルギーの粒子の衝突やジェットの境界での急激な圧力変化などを挙げる。

研究論文の共同著者で米ボストン大学の天文学者アラン・マルシャー教授は「衝撃波がその領域を横切ると、磁場が強くなり、粒子のエネルギーが高くなる。そのエネルギーは、衝撃波を生成する物質の運動エネルギーに由来するものだ」と解説している。

「IXPE」は2年のミッションでより多くのブレーザーを観測する計画だ。「マルカリアン501」についても観測を続け、時間とともに偏光が変化するかどうかを調べていく。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中