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アルツハイマー病

「アルツハイマー病は脳疾患ではないかもしれない」との仮説

2022年9月27日(火)17時33分
松岡由希子

「アルツハイマー病は脳疾患ではなく自己免疫疾患である」との仮説...... Dr_Microbe-iStock

<「アルツハイマー病は脳疾患ではなく、脳内の免疫系障害なのではないか」との仮説が話題に......>

アルツハイマー病は長年、脳疾患と考えられ、脳内で生成されるタンパク質の一種「アミロイドベータ」の凝集を抑制する治療法について研究されてきた。

なかでも、2006年3月16日付の学術雑誌「ネイチャー」に掲載された「『アミロイドベータスター56(Aβ*56)』というオリゴマー種がアルツハイマー病に関連する認知障害に寄与している可能性がある」との研究論文は、アルツハイマー病の早期治療法の確立に向けた有望な成果として大いに注目された。しかし2022年7月、学術雑誌「サイエンス」で「この研究論文は画像操作され、結果が捏造されたおそれがある」と報じられている。

<参考記事>
アルツハイマー病の原因はアミロイドβ、とした重要論文で画像操作の可能性が明らかに

アルツハイマー病は脳内の免疫系障害?

アルツハイマーの新たな理論として、加クレンビル研究所の研究主幹ドナルド・ウィーバー博士らの研究チームは、2022年4月22日付の学術雑誌「アルツハイマー&ディメンシア:トランスレーショナルリサーチ&クリニカルインタベンションズ」で「アルツハイマー病は脳疾患ではなく、脳内の免疫系障害なのではないか」との仮説を明らかにした。

免疫系は脳を含め、体内のあらゆる器官に存在する細胞や分子の集合体であり、損傷した組織の修復やウイルス、細菌などの侵入を防ぐ役割を担っている。

アミロイドベータは異常タンパク質であると考えられてきたが、ウィーバー博士の仮説によれば、脳の免疫系の一部として正常に生成される分子で、脳が外傷を負ったり、脳内に細菌が侵入した際、脳の免疫応答に重要な役割を果たす。

アルツハイマー病の新たな治療法につながる

問題なのは、細菌の膜と脳細胞の膜を構成する脂質分子は極めてよく似ているため、アミロイドベータは細菌と脳細胞の区別がつかず、脳細胞を誤って攻撃してしまう点だ。これによって、脳細胞の機能が慢性的に低下し、最終的に認知症なってしまう。

脳の免疫系が本来防御すべき器官を誤って攻撃するとすれば、アルツハイマー病は自己免疫疾患だと考えられる。ウィーバー博士は「これまで自己免疫疾患の治療に使われてきた薬剤はアルツハイマー病には効かないかもしれないが、脳内の他の免疫調整の経路を標的とすることで、アルツハイマー病の新たな治療法につながるのではないか」との見解を示している。


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