最新記事

中国

配信中のインフルエンサー元妻に火をつけた中国人男性に死刑執行

2022年8月23日(火)15時40分
佐藤太郎

Cinemagraphy-YouTube/Cinemagraphy

<2020年、当時30歳のインフルエンサーは自宅からライブストリーミングをしている最中に元夫にガソリンをかけられ火を放たれた>

中国で元妻を殺害した罪で死刑を宣告されていた男性の刑が執行され、世間に怒りと恐怖が呼び起こされた。7月23日朝にアバ・チベット族チャン族自治州の裁判所にあたる中級人民法院が刑の執行をオンラインで発表した。男性は死刑を不服として控訴していたが、今年1月に敗訴し刑が確定していた。

事件が起きたのは2020年9月14日。チベット人で「Lhamo(ラモ)」の名で、山での採集や料理、チベットの民族衣装を着た歌のリップシンクなどの日常を動画で投稿していた当時30歳のインフルエンサーが、短編動画プラットフォーム「Douyin」で自宅からライブストリーミングをしている最中に元夫にガソリンをかけられ火を放たれた。

9月17日に四川省人民病院に移され治療を受けていたものの、数週間後にこの世を去った。当時「ラモは全身の90%に火傷を負った」と、姉が語っている。

暴力から逃げても恐怖は続く

地元メディアによると、元夫には家庭内暴力(DV)の前科があったという。何年にも渡って家庭内で虐待され、離婚に至ったとされている。

ラモはDouyinに88万5000人以上のフォロワーを持つ影響力のある存在だった。そんな彼女の死は、家庭内で虐待や暴力の被害に遭っている女性が、たとえ離婚できたとしても恐怖に怯え続けなければならない窮状を知らしめ、家庭内暴力の問題にスポットライトを当てるきっかけになった。

事件直後にWeiboでは、数百万人のユーザーが「#Lamu case」「#Lamu died after being fired by her exhusband」というハッシュタグを使って正義を広めようとしたが、後に当局によって検閲され削除された。

理不尽な離婚の壁

中国では2020年に入り、ラモの事件が発生する以前から、家庭内暴力に関わる痛々しい事件がいくつも発生。被害者の保護と正義の追求を求める世論が高まっていた。

2020年6月には、河南省の女性が夫の暴力から逃れるために2階の窓から飛び降り、下半身不随になったため、離婚は不成立になった。その後、この出来事がソーシャルメディアで全国的に注目されたため、裁判所は離婚を認めた。

中国は2016年にDVを刑事罰化している。それから6年経っても依然としてこの問題は横たわっている。特に過疎地の農村地域の実態把握は遅れている。

2021年に中国の民法が改正され、離婚を希望するカップルに30日間の冷却期間を義務付ける「離婚クーリングオフ制度」が導入されたことで、被害者が虐待的な結婚から離れることがさらに難しくなるという懸念の声が専門家らから上がっていた。


<合わせて読みたい>
離婚するのは本当に難しいから結婚は慎重に...中国「離婚クーリングオフ制度」導入から1年


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メリンダ・ゲイツ氏、慈善団体共同議長退任へ 名称「

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、今週の米経済指標に注目

ワールド

原油価格上昇、米中で需要改善の兆し

ワールド

米、ガザ「大量虐殺」と見なさず ラファ侵攻は誤り=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中