最新記事

ウクライナ戦争

ロシアがアゾフターリに降らせたのは白リン弾か【ファクトチェック】

Fact Check: Does Video Show Russia Use Phosphorus Against Azovstal Plant?

2022年5月19日(木)18時16分
トム・ノートン

白リン弾とも疑われる白い光が降り注ぐアゾフターリ製鉄所(5月15日、ウクライナのマリウポリ)  Reuters TV via REUTERS

<ロシア軍による制圧の前日、巨大な製鉄所に空から降り注いた白い光は白リン弾なのか、違うのか。高温で骨まで焼き、体内でくすぶり続けるという非人道兵器について調べた>

ロシア軍が制圧したウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所。高い煙突の周辺に「白い火の玉」が降り注ぐ動画が、ロシア軍の白リン弾使用を裏付ける証拠として、SNSで拡散している。

白リン(精製した黄リン)は空気に触れると自然発火し、燃焼温度は2000〜2500℃にも達する。人体に触れると、重度の火傷をもたらす極めて危険な物質だ。

白リン弾は世界各地の戦場で使用され、米軍もイラクで使用したことを認めている。

アゾフスターリ製鉄所の動画は、ロシア軍による白リン弾使用の明白な証拠とされているが、それ以外の可能性を指摘する声もある。

5月15日にSNSに投稿されたこの動画は空から撮影されたもので、発火した白っぽい物質が次々に製鉄所に降り注ぐ様子が分かる。製鉄所にたてこもっていたウクライナ兵が退避を開始したのは、この翌日の16日からだ。

繰り返し騒がれる白リン弾使用

この動画を最初にメッセージアプリのテレグラムに投稿したのは、マリウポリの市長の顧問だ。彼はロシア軍が「焼夷弾または白リン弾」を使用した証拠だと主張。動画はすぐにシェアされ、ツイッターでも拡散されて、ロシア軍の手段を選ばぬ攻撃を非難する声が広がった。

ウクライナ侵攻開始後に、ロシア軍の白リン弾使用が疑われたのはこれが初めてではない。

3月には首都キーウ(キエフ)の北の郊外で使用されたとする動画が出回った(ただし、白リン弾かどうかは不明)。同月にはまた、ロシア軍が東部の都市クラマトルスクで白リン弾を使用したと、ウクライナ政府筋が非難した。

英国防省は4月、ウクライナ東部ドネツク州でロシア軍が白リン弾を使用したと発表し、「今後、戦闘の激化に伴いマリウポリでも使用される可能性がある」と警告したが、これについても白リン弾とは断定できないとの声も上がった。

特定通常兵器使用禁止条約(CCW)の「焼夷兵器の使用の禁止または制限に関する議定書」(議定書Ⅲ)は、焼夷兵器の戦場における使用に関し、一連の制限を課している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正中韓外相が会談、「困難」でも安定追求 日中韓首

ビジネス

野村HD、2030年度の税前利益5000億円超目標

ワールド

原油先物続伸、カナダ山火事や自主減産で需給逼迫観測

ワールド

政策に摩擦生じないよう「密に意思疎通」=政府・日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中