最新記事

北朝鮮

北朝鮮に狙われたハッカーが怒りの報復 一人で北の全サイトをダウン

2022年2月14日(月)17時30分
青葉やまと

北朝鮮の各種ウェブサイトがここ1ヶ月ほど、続々とアクセス不能に陥っている...... KCNA via REUTERS

<北朝鮮の海外向けサイトが一時すべてアクセス不能に。元を正せば1年前、怒らせてはいけないハッカーに北は火をつけてしまっていた>

北朝鮮が海外向けに公開している各種ウェブサイトがここ1ヶ月ほど、続々とアクセス不能に陥っている。外国政府による諜報活動が疑われたものの、その実態は怒りに燃えるハッカーによる報復措置だったことがわかった。米WIRED誌がハッカー本人への取材を交えて報じた。

北朝鮮は、海外向けに数十のウェブサイトを運営している。金正恩政権の公式サイトや、プロパガンダ目的の関連サイト、そして国営航空会社・高麗航空の予約サイトなどだ。しかし1月中旬ごろから、これらのサイトが断続的に不通となりはじめた。

ピーク時の1月26日には、海外から北朝鮮のすべてのサイトへのアクセスが不通となった。その通信状況を監視している英セキュリティ研究者のジュネイド・アリ氏は、北朝鮮のインターネットに対する「謎の大規模攻撃」が起きたと表現している。

メールなど他のインターネットベースのサービスも停止しており、アリ氏は「国に影響する、事実上のインターネットの停止」といえる規模だったと語る。

原因は、何者かによるサイバー攻撃だ。海外から北朝鮮へのアクセスをさばく主要なルーターのひとつまたは複数が攻撃を受けたことで、リクエストを処理することができなくなった。攻撃者は、怒りに燃えたたった一人のハッカーだった。

北朝鮮に狙われたハッカー

北朝鮮は1月、相次いでミサイルを発射している。そのタイミングから、当初は外国政府による組織的な諜報活動が疑われた。しかし、一連の攻撃の背後にいたのは、P4xと名乗るたったひとりのハッカーだった。

WIRED誌は、事の顛末をこう明かしている。「実際のところは、Tシャツにパジャマのズボン、そしてスリッパ姿という、あるアメリカ人男性のしわざだった。ピリ辛のコーンスナック片手に夜ごとリビングでエイリアンの映画を楽しみ、ときおり作業デスクに足を運んでは、一国のインターネットをまるごと混乱させるため、走らせているプログラムの様子をチェックしていたのだ。」 P4x氏は保安上匿名を貫いているが、自らが攻撃者である証明として、攻撃実行時の画面キャプチャを同誌に提示した。

氏を行動に駆り立てたのは、あわや北朝鮮に利用されかけたという私怨だ。昨年1月、氏は面識のない別のハッカーから、強力なハッキングツールだというソフトウェアを受け取った。ところがその後まもなく氏のもとに、憂慮すべき情報が舞い込む。北朝鮮が欧米のセキュリティ研究者らをターゲットとし、怪しげなツールを配布してバックドアを仕掛けているというのだ。

バックドアとは、PCに忍び込むための「裏口」だ。仕掛けられてしまうとその抜け穴を通じ、外部から遠隔操作でPCを乗っ取られる危険がある。P4x氏が問題のソフトを確認したところ、まさしくこのバックドアが仕込まれていたことが判明した。

幸いにも氏はメインの環境から隔離する形でツールを実行していたため、主だった被害は免れた。しかし、北朝鮮が自分という個人を狙っていたと悟り、「ショックを受け、がく然とした」という。

FBIに報告したが、対象が政府や組織でなく個人のセキュリティ研究者だったことから、何ら有効な対策を示す気配はない。業を煮やした氏は1年後の今年1月、北朝鮮への直接的な報復に動いた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米レッドロブスター、連邦破産法11条の適用を申請

ワールド

北朝鮮の金総書記、イラン大統領死去に哀悼メッセージ

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、半導体関連は総じて堅調

ワールド

バイデン氏、ガザの大量虐殺否定 イスラエル人の安全
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 10

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中