最新記事

ネット

混乱のカザフスタン、当局によるネット遮断で数百万人がニュースもATMも使えず

2022年1月12日(水)18時22分

アイシャさんの話では、カード端末やATMも稼働しなくなり、手許に現金がなかった人は食品の購入にも困るなど不便を強いられたという。

さらに、携帯電話の利用枠チャージができず、電波も途切れがちになったため、親族や友人への連絡も難しくなったとアイシャさんは言う。

チェコの首都プラハ在住のボゲさんの場合、カザフスタン出身のパートナーはこの3日間、母国内の家族に連絡が取れず、安否を確認できなかったという。

国内各地の都市では、治安部隊とデモ隊との衝突で数十人の死亡者が出たとみられている。

国内外の企業も困惑

インターネットの全面遮断は、いくつか想定外の影響を生んでいる。

先週、ビットコインを支えるグローバルなネットワークの計算能力は急激に低下した。カザフスタンはビットコインのマイニング(採掘)で世界第2位の規模を誇る中心地であり、恐らく同国にあるサーバーがダウンしたと考えられる。

だが前出のボゲさんは、証券取引所の取引からフードデリバリーの注文に至るまで、他にも多くのビジネス活動がネット接続の喪失により機能停止に陥ったと語る。

「遮断はネットワークへの信頼を低下させてしまう」とボゲさんは言う。

「つまり、カザフスタン企業の場合、将来的にビジネスにネットを利用することを躊躇(ちゅうちょ)してしまう可能性がある。また他国のビジネスパートナーにとっても同様であり、カザフスタンへの投資意欲が削がれかねない」

10日、世界各国のデジタル人権擁護団体は連名で、カザフスタン全域で「例外なく」ネット接続を完全に復旧するよう要請した。

この共同要請に参加したアクセス・ナウは声明の中で「ネットの遮断で、より安全な環境が生まれることはない」と述べた。

「(接続遮断は)国家やそれ以外の主体が、人々に対する残忍な仕打ちの責任を免れるための隠蔽(いんぺい)を行う一方で、ジャーナリストや人権擁護活動家が、危機の中で生じている事態を厳しく監視することを極めて困難にしている」

カザフスタン大統領府にコメントを求めたが、現時点で回答は得られていない。

トカエフ大統領は7日に行った演説で、ネット接続が部分的に回復する旨を告知するとともに、ネット遮断は「好きなところに集まり、好きなことを言える権利」があると考える「自称アクティビスト」への対応だと語った。

大統領府のウェブサイトで公開された声明によれば、トカエフ大統領は「ネットへの自由なアクセスは、捏造や誹謗中傷、侮辱的言動、扇動的なアピールを自由に公表できるという意味ではない」と述べた。

10日には、アルマトイで数日ぶりにネット接続が数時間にわたり可能になったことを含め、生活が正常に戻る兆候が見られた。

「アイシャ」さんの話では、ヌルスルタンでは10日、日中はずっと問題なくネット接続が可能だったという。数日間はごくわずかな時間しか接続できず、多くのことを処理しようとしても困難だったことを思えば、歓迎すべき進展である。

「私の時間を管理するのは他の誰かではなく私自身だという、確かな自信が持てそうだ」と彼女は語った。

だが数時間後、彼女の携帯電話は再びつながらなくなった。ネットブロックスは、カザフスタンが再び「ほぼ全面的なネット遮断状態に突入した」と報じた。

Umberto Bacchi(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価

ワールド

ウクライナ大統領、外遊取りやめ 東部戦況悪化が影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中