最新記事

アメリカ

今のアメリカに民主主義サミットを開催する資格があったのか(米スレート誌)

REAL LESSON OF THE SUMMIT

2021年12月13日(月)16時05分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

忖度のパワーポリティクス

だからこそ民主主義サミットを開く意義があるとも言えるが、今回のサミットは奇異に映った。

招待国の中に、フリーダム・ハウスが「ある程度は自由」(コロンビア、インドネシア、ケニアなど)、「自由ではない」(イラク、アンゴラ、コンゴ民主共和国など)と見なす国が29も入っていた。

ホワイトハウスのジェニファー・サキ報道官は「招待したからといって、その国の民主主義への取り組みを評価しているわけではない。招待しなかったからといって否定しているわけではない」と語った。

だったら、招待した国としなかった国の差は何を意味するのか。

そこにあるのは国際政治上の忖度だ。

ロシアと中国を外したのは、サミットが掲げる「民主主義vs専制主義」という対立軸が、ほぼ両国との闘争を意味するから。

イラクを招待したのは、アメリカが長期にわたる戦争で支援したためでもあるが、イスラエルを中東で唯一の参加国にできなかったから。

パキスタンを招いたのは、インドだけを招けばパキスタンの機嫌を損ねて対テロ作戦への協力を得られなくなるから(パキスタンは開幕直前に参加を見送った)。

こうした姿勢が悪いとは言わないが、パワーポリティクスを考慮しなければサミットが成立しないなら、この前提自体が適切ではないのだろう。

アメリカは以前ほど民主的ではなく、さまざまな面で力を失ってきた。以前のように一方的な意思を他国に押し付けることはできない。アメリカには同盟やパートナーが必要だ。そして、そうした国々は時に不愉快な存在になり得る。

アメリカがロシアか中国(あるいはその両国)を必要とする局面はたくさんある。

新型コロナウイルスのパンデミックと闘うため、イランの核開発を阻止するため、北朝鮮を一定の管理下に置くため、テロと闘うため、そして何より世界の3大核保有国である米中ロの関係を平穏なまま維持するため。

民主主義と専制主義の対立を強調いるサミットにロシアと中国を招かないことで、バイデンは米中ロの利益が深く絡む問題に関し、中ロ両国の協力を失っている可能性がある。

裏を返せば、これを機にロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平(シー・チンピン)国家主席の関係が近くなっているかもしれない。

同様に、ポーランドを招待してハンガリーを招待しないことで、ハンガリーのアーデル・ヤーノシュ大統領をさらに反民主主義的な右派へと追いやることにはならないか。

NATOの加盟国であるトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領を外したことも、同じ作用をもたらす可能性はないだろうか。

【話題の記事】国際社会はスーチー氏一人救えないのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日・ウクライナ首脳が会談、10年間の安全保障協定に

ビジネス

米5月PPI、前月比0.2%下落 昨年10月以降で

ワールド

西側に「最大限の損害」を、制裁報復を呼びかけ=ロシ

ワールド

凍結資産活用「大きな痛手伴う」、ロシアが西側に警告
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を締め上げる衝撃シーン...すぐに写真を撮ったワケ

  • 4

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    国立新美術館『CLAMP展』 入場チケット5組10名様プレ…

  • 7

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 8

    ジブリの魔法はロンドンでも健在、舞台版『千と千尋…

  • 9

    ウクライナ軍がロシアのSu-25戦闘機を撃墜...ドネツ…

  • 10

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 4

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 5

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 6

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 7

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 8

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中