最新記事

中国

中国共産党の権力闘争と自民党の派閥争い

2021年9月19日(日)15時25分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

1989年6月4日の天安門事件後に、まるで天から降ってきたような中共中央総書記と中央軍事委員会主席のポストは、中央に政治基盤のない江沢民にとっては驚きと喜びとともに、「不安」を伴うものだったにちがいない。

何しろ父親が日本の傀儡政権(汪兆銘政権)の官吏だったので、ダンスやピアノができ、酒が入ると「月が出た出た~、月が出たぁ、ヨイヨイ・・・」と炭坑節(たんこうぶし)を口ずさんだ。そんな風だったから、日本敗戦に伴ってあわてて共産党に近づき、1946年に党員になった。その後は現在の中共中央政治局常務委員会(チャイナ・セブン)の一人である汪洋の父親・汪道函によって引き立てられ工業部部長にまでなりはしたものの、北京には政治基盤などない。

だというのに、1993年には国家主席にまでなっている。それも全て鄧小平の一存で決められた。

だから鄧小平生存中は何とかなったが、鄧小平が政治舞台から消え始めた1995年あたりからからは、ひたすら「金」を使って培ってきたネットワークで政治を動かし始めた。

地方政府だろうが中央政府だろうが、はたまた中共中央委員会常務委員会だろうが、党と政府の要人のほとんどを利権で結ばれている配下によって占めさせ、江沢民に権力が集中するようにしたのである。

その結果、賄賂でしか政治は動かないようになってしまったために、言語を絶する「腐敗」が全中国を覆いつくした。その金額は国家予算を上回るほどで、中国国内の銀行では巨額すぎて目立つので、アメリカなど海外の銀行に貯蓄したり、紙幣を入れるためだけの家を建て、紙幣がカビてしまって使い物にならなくなったりしたほどだ。

最も肥え太っていったのは軍部で、軍部は司法さえ立ち入ることのできない「腐敗の温床」と化していった。

胡錦涛政権「チャイナ・ナイン」までは江沢民による激しい権力闘争

鄧小平は江沢民を2002年までの中共中央総書記・中央軍事委員会主席、2003年までの国家主席とし、次代は胡錦涛がそれに取って代わるものと指名していた。そのため鄧小平は1997年に他界したものの、江沢民は渋々ながらも鄧小平の指名通りに動くしかなく、2002年~2003年に胡錦涛政権が誕生した。

しかし胡錦涛政権のチャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員会委員9人)に、江沢民は6人もの刺客を送り込んで、胡錦涛の決定権を奪った。なぜならチャイナ・ナインでは多数決議決を絶対的原則としていたからだ。

胡錦涛は何とか腐敗と闘おうとしたが、江沢民派の6人によって常に否決され、実行することができなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中