最新記事

アフガニスタン

タリバン勝利の裏に習近平のシナリオーー分岐点は2016年

2021年9月6日(月)20時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

9・11同時多発テロ事件以降のアメリカによるアフガニスタン軍事侵攻後に誕生したアフガニスタン政府に対しても友好的で、実はタリバン代表団が2016年7月18日に訪中する直前の7月3日には、アフガン政府への軍事支援を中国は実行したばかりだった

この日のために2016年5月にはアフガニスタン政府のアブドラ・アブドラ行政長官が訪中し、習近平と対談さえしている

実は「一帯一路」に関しても「備忘録」に留まっているものの、一定程度までアフガニスタン政府と提携をする方向で進んでもいた

タリバンとも接触し、二股をかけていた習近平

2015年1月19日に発表された「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網」の「中国はなぜタリバンの"調停人"にならなければならないのか」によれば、中国は(旧)タリバン政権が誕生した1996年以降(~2001年)、特に「東トルキスタン・イスラム運動」が新疆ウイグル自治区のウイグル族と連携を始める1997年以降の1999年に、深くタリバン政権との関係を築き、ウイグル族を分離独立の方向に誘い込まないということを条件に経済支援を約束している。たとえば、中国はタリバン政権に通信サービスを提供し、アフガニスタンと国境を共有しているワカン回廊などを中心にして、カブールと新疆ウイグル自治区の首都ウルムチを結ぶ路線を開設することなどを約束していた。 

アメリカによるアフガン軍事侵攻で(旧)タリバン政権が崩壊した後も、2014年末にはタリバン幹部が北京を訪れ、アフガン紛争の和平プロセスの可能性に関して話し合っているし、2015年にも中国が主催し、パキスタン政府が支援する形で、新疆ウイグル自治区の首都ウルムチで元タリバン幹部を交えてアフガニスタンの和平プロセスに関して話し合っている

その意味では2016年7月のタリバン代表による訪中は、アフガニスタン政府誕生後から数えると、「3回目の訪中」であったと言える。これらはいずれも、習近平政権になってからのことだ。そして、この2016年7月以降から、習近平はさらに一歩進んで、アフガニスタン政府ではなく、タリバンの方に軸足を傾けていくのである。

2014年にあれだけ頻繁だった中国におけるテロは、2016年からは鳴りを潜め、2016年8月に陳全国を新疆ウイグル自治区書記に指名し(参照:4月15日のコラム<ウイグル問題制裁対象で西側の本気度が試されるキーパーソン:その人は次期チャイナ・セブン候補者>)、同年11月にはタリバンは自らの管轄下にある銅山における中国の権益を認めている(参照:8月20日のコラム<「金鉱の上に横たわる貧者」―アフガンの地下資源と中国>)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 5
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中