最新記事

イギリス

ロックダウン解除のイギリス、20万人感染予測「シートベルトを外してアクセルをベタ踏みするくらい無謀」?

2021年7月19日(月)18時10分
青葉やまと

各企業の経営者層が加入する英経営者協会の政策責任者は、英スカイニュースに対し、ロックダウン解除という「自由の日」を待ち望んでいたと語る。しかし、「ところが私たちが政府から受け取ったのは、いくつもの矛盾したメッセージとつぎはぎだらけの要求事項であり、これらはそうした熱気を削ぐものでした」と失意を露わにする。

ガーディアン紙によると、労働組合会議のオグレディー総書記は「カオスと感染増加のレシピ」だと述べ、政府の場当たり的な政策決定を厳しく非難した。

ジョンソン首相、隔離不要を2時間で撤回

ロックダウン解除を目前にして、「カオスと混沌」はすでに始まったようだ。ガイドラインとは別に、政府内の濃厚接触者に対する特別扱いが新たな火種となった。解除前日の18日、ボリス・ジョンソン英首相は自身が濃厚接触者となりながら、自己隔離に入らず公務を続ける方針を発表した。各方面から猛烈な批判にさらされたことで、わずか2時間20分で撤回に追い込まれている。

ジョンソン首相はリシ・スナック財務相とともに、新型コロナの陽性反応を示したサジド・ジャヴィド保健相の濃厚接触者となっていた。本来ならば10日間の自己隔離が求められるところ、検査を毎日受けることで出勤を続けられる試験的枠組みに参加することで、これを回避する意向であった。制度は首相官邸のほか、鉄道会社など20の民間および公共組織を対象として試験的に導入されている。

イングランドとウェールズでは先ごろ、接触アプリによって濃厚接触の判定を受けた人々が大量に発生した。自己隔離に入る人々が増加し、公共・民間サービスの維持が難しくなるなど混乱が生まれている。試験制度によりこの課題の解決が期待される一方、テスト実施は政治家など一部の特権階級にのみ適用されているとして、不満が噴出している。英テレグラフ紙は「(ボードゲームの)モノポリーでいう『刑務所から釈放カード』のような制度」だと述べ、自由に社会活動を続けられる例外的扱いを批判している。

ロックダウン解除に隔離不要の制度にと、比較的少ない死者数を武器にした経済再開への攻めの姿勢が目立つ。成功すればワクチン普及後のウィズコロナ社会のあり方を示せる可能性はあるものの、感染者10〜20万人との予測値を見るに、リスクの大きな試金石となりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中