最新記事

新型コロナウイルス

コロナ感染、重症化と男性ホルモンの関係はどうなっているのか 米研究

2021年6月3日(木)17時30分
青葉やまと

新研究は、低い数値と重症化との関連を指摘している

このように男性ホルモンとコロナの感染・重症化傾向については、男性ホルモンの数値が高いほど用心が必要だとの説が主流であった。

ところが、このたび新たに発表された論文においては、これとは真逆の興味深い結果が示されている。米ワシントン大学医学部が行い米国医師会誌に掲載された研究結果によると、テストステロンが低いほど重症化との関連が強いのだという。

研究チームは新型コロナの重症患者を調査し、病状の進行と複数のホルモンの濃度との関係を記録した。調査では女性62人、男性90人分のデータを収集している。結果、女性の場合ではどのホルモンの濃度も病状との関連は見られなかった。しかし男性については、重症患者ではテストステロンの値が低いことが確認された。

通常の成人男性では、テストステロンの濃度が1デシリットルあたり250ナノグラムを切ると低値と判定される。研究チームが軽症ないし中等症患者の男性たちの数値を測定したところ、同量あたり平均151ナノグラム前後と低かった。重症者ではさらに低く、平均52ナノグラムにまで低下していることが判明した。また、調査対象のすべての男性患者において、病状が進行するにつれてテストステロン値が低下してゆくことが確認されたという。

自分で気づきやすいテストステロン減少の兆候もある

現段階で研究は相関関係を示すものだが、因果関係を示すものではない。つまり、重症化と男性ホルモンに何らかの関係はあると見られるが、必ずしも男性ホルモンの数値が低いことが原因で重症化を招いているとは断言できない。米技術解説誌の『ポピュラー・サイエンス』は本研究を紹介しつつ、場合によっては因果関係が逆であり、重症化したことがきっかけでホルモンが減少したとも考えられる、と補足している。

とはいえひとつの可能性として、男性ホルモンの急激な減少がコロナ感染や重症化のサインであるかもしれないということは、覚えておいて損はないだろう。ハートフォード病院は本研究を紹介したうえで、自分で気付ける男性ホルモン減少の兆候を紹介している。

それによると、性的不能が最も目立つサインのようだ。テストステロンは体内で一酸化窒素の生成を促し、男性器の機能を助ける。性的反応が完全でなかったり持続時間が短かったりする場合は、何らかの問題があると考えられるため、医師に相談した方が良いだろう。このほか、男性における乳房の発達、体毛やうぶ毛など頭髪以外の減少、不眠などが、男性ホルモン減少の可能性を示しているという。

新研究を発表したワシントン大のチームは、入院患者のうちどの患者が今後重症化しやすいかを予測するために役立つのではないかと提言している。

現在日本でも一部で病床不足が発生し、自宅療養者の容体急変が問題となっている。男性ホルモンの測定によって病状をある程度まで予見できるようになれば、近く本当に病床を必要とする患者を優先的に搬送するためにも役立ちそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、日本産食品の輸入規制撤廃求める 日中首脳

ワールド

台湾の頼総統、中国軍事演習終了後にあらためて相互理

ビジネス

ロシア事業手掛ける欧州の銀行は多くのリスクに直面=

ビジネス

ECB、利下げの必要性でコンセンサス高まる=伊中銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 7

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 8

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 9

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中