最新記事

中国

建党100年、習近平の狙い──毛沢東の「新中国」と習近平の「新時代」

2021年6月25日(金)12時25分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

第三部分は「鄧小平+江沢民+胡錦涛」という、「習近平の新時代」が登場するまでの「過渡期的指導者」に過ぎないという位置づけになるのである。

何が「新時代」か?

何を以て「新時代」と称するのかというと、2010年以降にGDPが日本を抜き世界第二の経済大国になったことが大きい。

なぜなら、それまでは圧倒的な世界一の国家として君臨していたアメリカが、「もしかしたら中国に追いつかれ、追い抜かれるかもしれない」という時代に入ったからだ。

このことは中国にとっては1840年から始まったアヘン戦争などに代表される、長きにわたって先進列強諸国によって屈辱を受けていた中華民族の「偉大なる復興」へと一歩を踏み出すことができるようになったことを意味し、習近平政権は「中華民族の偉大なる復興」と「中国の夢」を国家スローガンとして歩み始めた。

すなわちアメリカと国力が拮抗する時代に入ったということだ。

それを可能ならしめたのは、1989年6月4日に起きた天安門事件に対する対中経済封鎖を解除させた日本だ。あのとき中国共産党による一党支配体制崩壊を日本が回避させてくれた。あの危機を回避できたということは、何れはアメリカと肩を並べる日が来ることを意味してもいた。習近平は、その時代に遭遇した。

そこで、2012年11月に中共中央総書記になった習近平は、中国を組み立て工場のプラットフォーム国家から抜け出させ、ハイテク国家に持っていくための「中国製造2025」を指示した。これこそはアメリカと中国の覇権争いが現実化していく最も大きな要素となっている。

習近平は経済においてアメリカにキャッチアップするだけでなく、「中国製造2025」により、半導体や宇宙開発あるいは軍民融合(軍のハイテク化)など、ハイテク世界における世界制覇を狙っており、これは世界史上、これまでにない「新しい時代」の覇権争いを米中間にもたらす結果を招いた。

中国は「新段階」=「新時代」に入ったのだ。

習近平の狙いは?

習近平の狙いを大きく分ければ、一つは「アメリカに追いつき追い越すこと」であり、もう一つは「中国共産党による一党支配体制の維持」である。

前者は「ツキディデスの罠」という言葉があるように、世界でトップにいた国家は、いつかはその二番手によってキャッチアップされ追い越されるかもしれないという運命から逃れることは出来ない。だから一位にいる国家は、必ず二番手として追い上げてくる国家を潰そうとする。

習近平にとってラッキーなのは、彼は正にこの時代に中国のトップ指導者の職位に就いていたことだろう。だから、どのようなことがあってもアメリカに潰されまいとさまざまな戦略を練ってきた。「一帯一路」構想などもその一つだ。

一方、アメリカが中国を潰そうとすればするほど、中国人民は一致団結して「中華民族の誇り」を守ろうとし、「中華民族の偉大な復興」を成し遂げてくれる中国共産党を擁護する。屈辱に満ちた中華民族の歴史を覆し、ここまで中国を発展させることができた党は中国共産党以外にないと、「言論の不自由」などに多少の不満を持っても、結局中国共産党を肯定しているのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、物価圧力緩和まで金利据え置きを=ジェファー

ビジネス

米消費者のインフレ期待、1年先と5年先で上昇=NY

ビジネス

EU資本市場統合、一部加盟国「協力して前進」も=欧

ビジネス

ゲームストップ株2倍超に、ミーム株火付け役が3年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中